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料理・食品の科学

コショウの風味を引き出す科学的方法

2019年5月29日

安いステーキ肉コショウの風味でごまかしてみた

書かれていること

  • コショウの風味を引き出す科学的方法
    ――安いステーキ肉をコショウでごまかそう
  • コショウの辛味成分「ピペリン」とは

 

お肉好きの筆者は、ステーキが大好物。

自宅で美味しいステーキを食べるには、そう!A5ランクの特選サーロイン!

そんな生活に憧れますよね(食べたことないけど)

私は思いました。「高い肉には手が出ない。でも、おいしいステーキが食べたい!」

 

こんな時に頼るべきは、調味料。肉が安いなら、味付けでがんばります。ステーキに合うスパイスといえばコショウですよね。

知っていますか?大航海時代にヨーロッパで珍重され高級品だったコショウは、富裕層の間で富の象徴とされました。それが今では、思う存分コショウを使える私たち。なんだかリッチな気分になります。

今回は、安い肉を使って「コショウが主役」のステーキを焼こうと思います。焦点は、コショウの良さをとことん引き出すこと。あのスパイシーな風味がターゲットです。

「コショウの風味を最大限引き出し、安いステーキ肉を美味しくごまかす」科学的方法を考えていきます。

コショウの風味を引き出すには

コショウは豊かな風味を持った香辛料です。少し遠回りですが、はじめに「風味」の意味を考えます

風味には文字通り、味が含まれるでしょう。では、風味とはただの味のこと?その考えには違和感があります。そこで、広辞苑をひくと「上品なあじわい」とのこと。
――うーん。どうもはっきりしません。

ですが、経験的に考えて、味に並び重要なのは「香り」の存在。例えば、松茸は風味豊かな食材として代表的です。もし松茸に香りがなかったら?キノコ図鑑での妥当な記述は「食用だが風味に欠ける」かもしれません。そのとき一体誰が、このキノコ1本のために数千円を差し出すのでしょう。

ステーキに使うコショウも同じく、辛味とともに欠かせないのが香り。――あなたは、二つの匂いを嗅ぎ分ける自信はありますか?「焼肉」と「コショウを効かせたステーキ」を焼く時の、それぞれの匂いです。きっと違いが分かるはず。

牛肉を焼くのは同じなのに、匂いの印象は大きく違います。焼肉の、ただ肉の焼ける匂いに対し、ステーキの匂いはより複雑で、スパイシーな感じです。

「コショウの香りが、舌で味わうまでもなく、同じ牛肉を全く別の料理にしている。」
コショウの香りは、料理の印象を決定づけるほど、大きな役割を果たしているんですね。

この記事では、コショウの風味を構成する「辛味」と「香り」の両方を引き出す必要があると考え、その具体的な方法を追求します。

 

コショウの「辛味と香り」は別成分

ここで、知っておくべき重要なことがあります。「辛味と香りは同じ成分かどうか」

結論から言いますと、コショウの辛味と香りは別の成分(分子)。風味を引き出すには、辛味成分と香り成分の二つを分けて考えると良さそうです。

 

コショウの辛味成分は「ピペリン」

コショウの辛味成分となっているのは「ピペリン」という分子。唐辛子でいうカプサイシンのような存在です。

ピペリンの性質を知ることで、コショウの辛味を攻略しましょう。「不揮発性」と「脂溶性」の二つがキーワードです。

不揮発性は「加熱調理をしても蒸気になって飛んでいったりしないこと」、脂溶性は「油や脂身にその成分が溶け込みやすいこと」を意味します。

なので、コショウの辛味を引き出す方法は

加熱調理により、下味に使ったコショウの辛味を油に移す!

油を使って加熱調理中に、下味のコショウから脂溶性のピペリンが油に溶け出す(抽出される)というわけです。

ピペリンが溶け出た油で表面をコーティングされた料理。これなら、しっかりとコショウの辛味を楽しめるはずです。

 

コショウの香り成分は揮発しやすい

次に、コショウの香り成分ですが、こちらは少々複雑。辛味成分ピペリンのように、単一の成分ではありません。

コショウの香りは、何種類もの分子が合わさった香りです。これら香り成分に共通するのは「揮発性」であること。香りの成分が気化し、空気とともに鼻まで届くことで、私たちは香りを感じるのです。この特徴からは、二つの大事なポイントが導けます。

一つ目は、「加熱しすぎない」こと。長時間加熱しすぎると、できた料理に香りが残りません。辛味をつける下味用コショウとは別に、仕上げ用のコショウを最後に振って香りの減少を防ぎます。
(※加熱しすぎはNGですが、短時間サッと加熱すると、香りが引き立ちます。)

二つ目は、仕上げ用コショウは「ミルで挽く」こと。ホールペッパー(粒丸ごと)を、ミルでゴリゴリ削りましょう。ミルとは、料理好きの人がよく使っているこんなアイテム。

信頼の京セラ製。私も使っています。

京セラのセラミックミル・レビュー記事はこちら

工場で挽いて売られているコショウは、香り成分がほぼ飛び、辛味だけが残ったような状態。これに対し、ホールペッパーは粒の中に香りが閉じ込められています。使う時に挽くことで放出され、豊かに香り立つのです。もとは同じコショウでも、香り成分の揮発性のせいで、まるで別物です。

ということで、コショウの香りを生かすには

調理の最後に、ミルで挽いたコショウで仕上げる!

コショウをミルで挽く挽きたては香りが違います

 

コショウの風味を引き出す3つのポイント

長くなったので、これまで導かれた情報をまとめます。ステーキを焼く時に使える、コショウの風味を最大限引き出すコツは、この3点。

ポイント

  1. 下味用(辛味のため)と仕上げ用(香りのため)で、コショウを使い分ける
  2. 下味用コショウから、加熱調理により、辛味成分ピペリンを油へ溶かし出す
  3. 仕上げ用コショウは香りを生かせるミル挽きで、最後にかける(ほんの少し加熱)

もちろん、この方法の裏にある原理や理由もセットなら、色んな料理に広く応用できるはずです。知っていることの応用が、料理上手への近道です。

さて、やっと方法を導けました!上手くいくでしょうか?
――三つのポイントを守って、実際に安いステーキ肉を焼いてみたいと思います。

 

安いステーキ焼いてみた

スーパーで安いステーキ用の肉を買ってきました。「牛肉肩ロースステーキ」159gで297円(+税)。我らの味方アメリカ産、さすがお安い。

買ってきた安いステーキ肉

レシピ

  1. 下味として両面に塩コショウを振る(コショウ強め)。
  2. 油をひいたフライパンで両面を焼く。
  3. 最後にミルでコショウを振り、コショウのかかった面を下にしてサッと加熱。もう片面も同じことを。

一見、至って普通のレシピです。超シンプルなレシピと味付けで調理します。ただし、コショウを使う量と手順で普通のステーキと差別化を図ります。
(※後述しますが、安い肉はしっかり筋切りしておきましょう!)

 

ステーキの調理・実食

焼く直前に下味として、ミルで岩塩とブラックペッパーを挽き、両面にかけます。これが辛味を目的にしたコショウです。下味に使うコショウの方は、ミル挽きでなくても大丈夫です。細かく挽かれている方が、より辛味が抽出されやすくなります。

塩とたっぷりのコショウを振ります

コショウをたっぷり、かけすぎなくらい使いました。

焼いていきます。使うのは、ホームセンターで売っているテフロン加工のフライパン。ごく普通のです。油はオリーブオイルを使用。

フライパンでステーキを焼きます

両面が焼けたら、まず片面にミルでコショウを振ります。裏返してサッと火を通し、加熱により香り成分を引き出します。ほんの数秒でも大丈夫です。スピード命。

すぐにもう片面にもコショウを。もう一度裏返して、こちらも加熱したら完成です。食欲を誘う匂いが立ちのぼっています。香りが失われないよう、急いで皿に移しましょう。

ステーキの完成、スパイシーな匂いです。

見た目は何の変哲も無いステーキですが、スパイシーな香りがかなり強烈です。

拡大図。コショウ多めです。

拡大すると、コショウがたっぷりかかっているのが伝わるでしょうか?

少しレア気味に仕上げました。大きめに切って、さあ、頂きたいと思います!

レア気味に仕上げました。いただきます!

口に入れた瞬間、スパイシーな香りがこれでもかと広がります。

調理中に実は「調子に乗ってコショウ振りすぎたかなー(汗)」と、辛すぎて食べられない気がしていました……でも、全く心配無用でした。

皆さんのご想像通り、しっかり辛味が感じられます。ですが、ただ辛いだけじゃないんです。

焼いた肉の脂って、うま味が溶け出ていますよね。このステーキではうま味と一緒に、嫌な脂っこさを打ち消すくらいの辛味があります。かといって辛すぎません。

脂の中にうま味と辛味の合わさった、シンプルだけどキレのある味わいです。これはまさに――

大人の味です!

私感ですが、「コショウの風味を最大限引き出す」という目的は、十分に達成できたと思います。

 

ただ、一つだけ難点が……筋が多くてかたい(笑)

安いステーキ肉の宿命です。これは味付けではどうにもできません。筋切りしておけばよかった。味付け前に、筋ばっている所は包丁の切っ先で、よく筋切りしましょう。

 

まとめ

安いステーキ肉の筋は硬かったのですが、味はバッチリです!今まで食べたステーキの中で一番、コショウの風味を感じられました。

ステーキの味付けにソースを使った場合、肉本来のうま味が隠れてしまいがちではないでしょうか。

一方、今回の味付けで優れているのは、肉の持つ脂身とうま味が、コショウによる味付けと良く調和していた点。味のついたものをかけるのではなく、「溶性のピペリンが脂に溶け込んでいる」ような印象が持てました。

 

最後になりましたが、今回のレシピ自体はそこまで特別なものではなかったかもしれません。ですが、コショウのもつ辛味や香り成分の特徴を知って考えることで「なんとなく」味付けをするのではなく、確信を持って調理ができると思います。

下味用のコショウから油(脂)へ辛味を引き出すこと。香りをつけるため、最後にミル挽きコショウで仕上げること。これでコショウの使い方を「考える」ことができるはずです。

安いステーキにも、お高いステーキにも(笑)、そしてステーキ以外のコショウを使う料理にも。今回の知識と考え方を、みなさんに活用してもらえれば幸いです。

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