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重曹の食用と掃除用の違いは「純度」ではない

重曹の食用と掃除用の違いは「純度」ではない
  • 食品添加物や医薬品の重曹
    食用にも、掃除・洗浄にも使用可能。
  • 掃除用の重曹
    食用にはできない。掃除・洗浄用としての効果は食用の重曹と同等。
    価格が安い傾向あり。

食用と掃除用の重曹の違いは、食品添加物として売られている規格品かどうかです。

一方、ネット上には、実際の公的規格とは異なる純度の値や、掃除用の重曹には添加物が含まれるとの誤情報が、広く拡散されています。

この記事では、化学の知識を持つ筆者が、一次情報を参照・引用しつつ、食用と掃除用の重曹の正しい違いを解説します。

重曹の規格による分類【純度の違いはほぼない】

重曹は、公的な規格品としては「食品添加物」と「第3類医薬品」の2つがあります。その他の掃除用や工業用の重曹には、公的な規格は存在しません

そのため、一般向けに市販されている重曹は、規格により以下の3つに分類できます。

食用(食品添加物)の重曹
  • 食品添加物公定書の規格を満たしている。
  • 口にした際の安全性が保証されている。
第3類医薬品の重曹
  • 日本薬局方の規格を満たしている。
  • 口にした際の安全性が保証されている。
その他(掃除用・工業用)の重曹
  • 一般に、公的な規格品ではない。
  • 口にした際の安全性は保証されていない

規格による重曹の違いは、主に口にした際の安全性にあります(次章で解説)。

一方、規格による純度の違いはほとんどありませんが、ネット上には、多数のサイトに共通した誤情報が広まっています。

そこで、重曹の正しい純度の情報と、ネット上に広まっている誤情報をまとめます。

重曹の規格ごとの正しい純度とネット上の誤情報
重曹の規格正しい純度誤情報の純度誤情報への補足
食用
(食品添加物)
99.0%以上98~99%この純度で食用として販売すると違法。
第3類医薬品99.0%以上100%物理法則に反するため、
この宇宙では製造不可能
掃除用・工業用
など
製品による95~98%製品によるが、99%以上が一般的
多数のサイト・記事に共通した誤情報が記載されている理由は?

ネット上に存在した誤情報が、十分な確認もないまま多数のサイトで繰り返し紹介され、広まったものと考えられます。

中でも、「食用は98〜99%、医薬品は100%」といった純度の数値は、実際の公的な規格とは明確に異なりますが、多くのサイトの記事に掲載されています。

こうした記事の多くは、ほかのサイトの情報をそのまま写しただけの内容で、公定書や法令といった一次情報を参考にしたものではありません。

とくに、有名な企業のサイトに記載されていると信じてしまいがちですが、誤った情報が掲載されていることもあります。

2025年4月現在、食やレシピに関するアプリ開発や情報発信を行っている上場企業のサイトでさえ、食用重曹の純度に関して、同様の誤情報を発信しているケースも見られました。

ネット上ではこのように、すぐに見つかる情報をそのままコピーして発信することに注力しているサイトが多く、共通した誤情報が定説のように広まりやすいため、注意が必要です。

掃除用・工業用の重曹も純度99%以上が主流

ネット上で広まっている情報とは裏腹に、工業用の重曹は一般に、とくに純度が低い製品ではありません。一般的には、純度99%以上の製品が主流です。

掃除用・工業用重曹の純度について

「掃除用」として売られている重曹の中には、工業用の重曹を家庭向けに詰め替えたものも多く存在します。

そして、ネット上では、掃除用や工業用の重曹は、食用よりも純度が低いと紹介されがちです。

しかし、国内製造の工業用重曹は、一般的に純度99%以上で、食用と比べてとくに差が見られるわけではありません。

国内大手メーカーの「AGC」「トクヤマ」においても、以下のように、工業用の重曹は純度99%以上が保証されています。

AGC株式会社の工業用重曹

「重炭酸ナトリウム(一般工業用)」の品質規格票で、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の純度として99%以上が保証されている。

株式会社トクヤマの工業用重曹

「重曹(重炭酸ナトリウム)」のカタログで、その他一般(工業用)の重曹では、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)の純度として99%以上が保証されている。

掃除用として売られている重曹が必ずしも純度99%以上とは限りませんが、ネット上に多い「掃除用・工業用重曹は純度95~98%」という情報は、一般的には誤りといえます。

とくに、95%という下限側は常識外れに低い純度で、メーカー側もあえて純度を下げた製品を製造・出荷するメリットがありません。

工業的な製法や市場の実態を踏まえると、そのような低純度の重曹が流通しているとは考えにくく、根拠に乏しい情報です。

食用と掃除用の重曹の違い【衛生管理・安全性】

掃除用の重曹は、口にした際の安全性が保証されていないため、食用にしてはいけません。

一方、ネット上では「掃除用の重曹は純度が低くて不純物が多く、口にすると危ない」といった説明がされがちですが、これは不正確な情報です。

実際には、先述したように純度の差はほぼなく、「公的な規格に沿った品質が保証された製品か」「十分な衛生管理が確実に行われているか」の2つが重要な違いといえます。

食品添加物や医薬品の重曹
  • 公定書の規格に適合した製品のみが流通している。
  • 厳しい衛生管理のもとで製造されている。
掃除用の重曹の特徴
  • 純度は食用とほぼ差がないことが多い。
  • 品質や衛生管理などの面で安全が保証されておらず食用には適さない。
    (※有害だとは限らない)
  • 洗浄のための添加物などは入っていない(次章で解説)。

食用にできる食品添加物や医薬品の重曹は、それぞれの公定書(食品添加物公定書や日本薬局方)にて、純度や性状、不純物の含有量など、多数の基準が設けられています。

食品添加物や医薬品として販売されているのは、それらの基準に適合する製品のみです。

例として、食品添加物公定書より、規格の内容を紹介します。

食品添加物公定書の炭酸水素ナトリウム(重曹)の規格

以下は、食品添加物公定書で定められている、炭酸水素ナトリウムの規格です。

炭酸水素ナトリウム
Sodium Bicarbonate
重炭酸ナトリウム
重炭酸ソーダ

NaHCO3 分子量 84.01
Sodium hydrogen carbonate [144-55-8]

含量本品を乾燥したものは、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)99.0%以上を含む。

性状本品は、白色の結晶性の粉末又は結晶塊である。

確認試験本品は、ナトリウム塩の反応及び炭酸水素塩の反応を呈する。

純度試験

⑴ 溶状 澄明(1.0g、水20mL)

⑵ 塩化物 Clとして0.021%以下
本品0.50gを量り、硝酸(1→10)5mLを加えて煮沸する。冷後、試料液とする。比較液には0.01mol/L塩酸0.30mLを用いる。

⑶ 炭酸塩 本品1.0gを量り、水(二酸化炭素除去)20mLを注意しながら加え、15°C以下の温度で水平に揺り動かして溶かす。この液に0.1mol/L塩酸2.0mLを加え、次にフェノールフタレイン試液2滴を加えるとき、直ちに赤色を呈さない。

⑷ アンモニウム塩 本品1.0gを量り、加熱するとき、アンモニアのにおいを発しない。

⑸ 鉛 Pbとして2µg/g以下(2.0g、第5法、比較液 鉛標準液4.0mL、フレーム方式)
本品に塩酸(1→4)20mLを加え、時計皿等で覆い、穏やかに5分間沸騰させる。冷後、試料液とする。なお、試料が溶けない場合には、蒸発乾固した後、残留物に塩酸(1→4)20mLを加え、穏やかに5分間沸騰させる。冷後、試料液とする。

⑹ ヒ素 Asとして3µg/g以下(0.50g、標準色 ヒ素標準液3.0mL、装置B)
本品に水3mL及び塩酸2mLを加えて溶かし、検液とする。

乾燥減量 0.25%以下(4時間)

定量法 本品を乾燥し、その約2gを精密に量り、水25mLを加えて溶かし、0.5mol/L硫酸で滴定する(指示薬 ブロモフェノールブルー試液3滴)。ただし、終点付近で一度煮沸して二酸化炭素を追い出した後、冷却して滴定を続ける。
0.5mol/L硫酸1mL = 84.01mg NaHCO3

また、食品添加物や医薬品の重曹は、製造時の衛生管理も徹底されています。

食品添加物ではHACCPハサップ(食品の衛生管理手法)に、医薬品ではGMP(医薬品などの適正製造基準)に沿って製造されており、異物や有害物質の混入、微生物による汚染への対策が行われています。

掃除用の重曹は、食用として十分な品質であることが保証されておらず、また、十分な衛生管理が行われているとも限りません。

有害物質や異物が混入している可能性も否定はできないため、掃除用の重曹を口にしてはいけないのです。

なお、「食用の重曹は食品衛生法の基準に準じて製造されている」といった説明がされがちですが、やや語弊のある説明です。

実際には、食品衛生法そのものでは、細かな規格などは定められていません。食品衛生法を根拠とし、厚生労働省が定めた「食品添加物公定書」にて、成分規格などが細かく規定されています。

食用と掃除用の重曹で「洗浄力」に差はない

ネット上では、掃除用の重曹が「添加物の配合や粒子の大きさにより、食用よりも洗浄力が高い」と説明されることがあります。

これらは、誤っているか、もしくは信頼に値しない情報です。

掃除用に洗浄力を上げる添加物は入っていない

「掃除用の重曹には添加物が加えられている」というネット上の情報は、根拠のない誤情報といえます。

単に「重曹」として売られている製品に添加物が加えられていることは、通常は考えにくいです。

成分表示を見て、「炭酸水素ナトリウム」や「重曹」だけであれば、それはただの重曹です。

そのため、洗浄における化学的な作用には、食用と掃除用の重曹で違いは一切ありません


もしも、重曹に洗浄力を上げる成分を配合すれば、多くの場合、その成分の表示義務が生じます。

成分の表示義務

市販されている掃除用の重曹は、家庭用品品質表示法において「住宅用又は家具用の洗浄剤」に分類され、その成分表示にも法的なルールがあります。

例えば、界面活性剤や酸化剤を配合すれば、含有率に関係なく成分表示への記載が必要です。

「洗浄補助剤及びその他の添加剤」に分類される成分の場合は、含有率が1%以上なら成分表示への記載義務があります。

成分によっては、含有率が非常に低ければ、表示義務が課されないケースもあります。

しかし、他の成分を均一に混ぜた重曹を製造すれば、製造コストは大きく上昇します。

特別な成分が配合されていることを消費者にアピールせず、こっそりと添加物を配合して販売することは、まったくもって経済合理的とはいえません。

このように、法的・経済的な観点から考えても、「掃除用の重曹には添加物が加えられている」という主張は非現実的です。

掃除用の方が粒子が粗いという情報も不確実

重曹のもつ、物理的な研磨作用を利用する場合、粒子の大きさも洗浄力に影響します。

しかし、ネット上に多い「掃除用の方が粒子が粗い」という情報は根拠が乏しく、信頼に欠ける情報です。

実際には、重曹の粒子の大きさは製品によって異なります。「食用は細かく、掃除用は粗い」といった単純な分類は成り立ちません。

例えば、トクヤマの重曹には、粒径(粒子の大きさ)に応じたグレードが存在します

具体的には、医薬品・食品添加物・飼料添加物・工業用の各製品につき、粒径の大きさや分布が異なる3種類のグレード(Eグレード・Mグレード・Pグレード)が設定されています。

このように、各規格ごとに異なる粒径の製品が存在しており、規格によって一概に粒径が決まるわけではありません。

価格は掃除用重曹の方が安い

同じ重曹でも、食用と掃除用では、販売価格に明確な違いがあります。

なるべく安い製品を選ぶと、一般に掃除用の方が大幅に安く、1 kgあたりで見るとおよそ半額程度になるケースもあります。

そのため、以下のような基準で選ぶとよいでしょう。

  • 掃除だけに使う(食用にしない)なら、安い掃除用の重曹を選ぶ。
  • 料理など食用に使うなら、必ず食品添加物(もしくは医薬品)の重曹を選ぶ。

なお、重曹は純粋な物質であり、基本的にメーカーによる性能差などはありません。

そのため、用途に適した規格(掃除用か食品添加物か)の、なるべく安い製品を選ぶと合理的です。

そこで、掃除用と食品添加物のそれぞれで、比較的安価で、かつ安定供給されている製品を3つずつ紹介します

掃除用の重曹

掃除用の重曹(食用は不可)のうち、比較的安価な3つの製品です

住まいのおそうじ 重曹 500g 丹羽久
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掃除用(食用不可)

激落ちくん 重曹 1kg レック (LEC)
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掃除用(食用不可)

マルチ重曹クリーナー 2kg ライオンケミカル ピクス
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掃除用(食用不可)

食品添加物の重曹

食用に使える食品添加物の重曹のうち、比較的安価な3つの製品です。料理・お菓子作り・あく抜きなどに使用できます。

なお、食用と掃除用が存在する物質としてはクエン酸も挙げられます。

クエン酸の場合、掃除用の方が安いといった明確な傾向はありません。むしろ、重さあたりの単価で、食品添加物の方が安いことも多いです。

また、掃除用のクエン酸は、1kg以上の大容量品はあまり存在せず、容量が少なめの製品が中心です。

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まとめ・脚注・参考資料

重曹は、食用にできる食品添加物医薬品と、食用にできない掃除用の製品があります。これらは、規格・安全性・価格の面で明確な違いがあります。

食用(食品添加物)や医薬品の重曹は、公的な規格に適合し、厳しい衛生管理のもと製造された製品のみが流通しています。

一方、掃除用の重曹は、口にした際の安全性が保証されていないため、食用には使えません。

また、ネット上には「掃除用は純度が低い」「洗浄力を上げる添加物が入っている」などの情報もありますが、これらは根拠に乏しい誤情報です。実際の純度はほとんど差がなく、洗浄力にも違いはありません。

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