重曹(炭酸水素ナトリウム)の化学式はNaHCO3です。本記事では、重曹の化学式が持つ意味を説明し、重曹の性質や化学反応についてまとめています。
重曹は調理や日用品にも利用されている物質です。記事後半では、身近な利用例も紹介します。
重曹(炭酸水素ナトリウム)とは?化学式・性質・化学反応性を解説
重曹は「炭酸水素ナトリウム」という無機化合物の別称で、重炭酸曹達の略語です。
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「重曹」という名前の由来はこちらの記事で解説しています。
重曹(炭酸水素ナトリウム)とはどんな物質なのか、化学式をベースに解説します。
重曹(炭酸水素ナトリウム)の化学式はNaHCO3
重曹(炭酸水素ナトリウム)の化学式はNaHCO3です。
NaHCO3という重曹の化学式を理解するには、構成しているイオンに分けて考えるのが近道です。
重曹(NaHCO3)は水に溶けると、ナトリウムイオン(Na+)と炭酸水素イオン(HCO3–)の2つのイオンに分かれます。
NaHCO3 → Na+ + HCO3–
つまり、NaHCO3という化学式は、「炭酸水素イオン」と「ナトリウムイオン」から成る塩を表しており、炭酸水素ナトリウムを指しているのです。
ナトリウムイオンと炭酸水素イオンについて知れば、重曹についても理解が深まるでしょう。続けて解説します。
重曹に含まれるNa+(ナトリウムイオン)とは?
重曹を構成する陽イオンでもある「ナトリウムイオンNa+」は、地球上に広く分布する金属イオンです。最も代表的な塩は、食塩の成分である塩化ナトリウムNaClであり、海水に多く含まれます。
他にも、多くの身近な物質がナトリウムイオンを含んでいます。
- ナトリウムイオンを含む身近な物質の利用例
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- 食塩
塩化ナトリウム(NaCl) - 石鹸
脂肪酸ナトリウム(RCOONa) - ハイターなどの漂白剤の有効成分
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO) - 洗濯用洗剤に含まれるアルカリ剤
炭酸ナトリウム(Na2CO3) - 重曹(ベーキングパウダーなどに含有)
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)
- 食塩
また、上のリストの物質は、ナトリウムをカリウムに置き換えた塩でも化学的性質が類似しています。
例えば、脂肪酸カリウムは液体石鹸の成分です。次亜塩素酸カリウムは、広くは用いられていませんが、ハイターの次亜塩素酸ナトリウムと同じく、やはり漂白作用を持ちます。
炭酸カリウムや炭酸水素カリウムの水溶液は、対応するナトリウム塩と同程度の塩基性(アルカリ性)です。
つまるところ、これらの物質の化学的性質は、ナトリウムやカリウムイオンのような陽イオンよりも、陰イオンに大きく左右されています。
ナトリウムイオンは、水溶性の塩を構成する成分として普遍的かつ、目立った特徴のない陽イオンとも言えるでしょう。
重曹の性質を理解するには、陰イオンである炭酸水素イオンが重要です。
重曹に含まれるHCO3–(炭酸水素イオン)とは?
炭酸水素イオンHCO3–は、炭酸に由来する1価の陰イオンです。
炭酸H2CO3とは、水に二酸化炭素が溶けると生じる酸です。炭酸からは、「炭酸水素イオンHCO3–」と「炭酸イオンCO32-」の2種類の陰イオンが生じ得ます。
例えば、炭酸が溶けた水に水酸化ナトリウムを加えた場合の化学反応式は、以下のように2段階に分けて表すこともできます。
- 炭酸と水酸化ナトリウムの化学反応式
- H2CO3 + NaOH → NaHCO3 + H2O
- 炭酸水素ナトリウムと水酸化ナトリウムの化学反応式
- NaHCO3 + NaOH → Na2CO3 + H2O
つまり、炭酸に水酸化ナトリウムを加えるにつれて、「炭酸→炭酸水素イオン→炭酸イオン」という変化をします。重曹に含まれる炭酸水素イオンは、炭酸と炭酸イオンの中間的存在と言えるのです。
炭酸水素イオンは条件次第で、炭酸にも炭酸イオンにも変化します。
重曹の化学的性質の多くは下記のように、炭酸水素イオンが、炭酸になったり、炭酸イオンになったりする変化として説明できます。
- 炭酸水素イオンから炭酸や炭酸イオンへの化学変化の例
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- 重曹を水に溶かすと弱い塩基性(アルカリ性)を示す
炭酸水素イオンの一部が水から水素イオンを奪って炭酸になるときに、水酸化物イオンOH–が生じるため。 - 重曹に酸を加えると発泡する
加えられた酸との反応で炭酸水素イオンが炭酸になり、炭酸が分解すると二酸化炭素となるため。 - 重曹を加熱すると二酸化炭素を放出しつつ炭酸ナトリウムに変化する
2つの炭酸水素イオンの間で反応が起こり、一方が炭酸になり、もう一方は炭酸イオンになる。その結果、炭酸から二酸化炭素が生じ、炭酸ナトリウムが残るため。
- 重曹を水に溶かすと弱い塩基性(アルカリ性)を示す
こうした重曹の化学反応性については、続けて詳しく解説しますが、炭酸水素イオンの変化に着目すると分かりやすいでしょう。
ちなみに炭酸水素イオンは、炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2として飲料水や生活用水にも含まれ、とくに硬水に多く含まれます。
重曹(炭酸水素ナトリウム)の性質や代表的な化学反応
重曹(炭酸水素ナトリウム)の代表的な性質をいくつか紹介します。
重曹水溶液はごく弱い塩基性(弱アルカリ性)
重曹の水溶液は塩基性(アルカリ性)です。
水溶液が塩基性(アルカリ性)を示す理由は、下記の化学反応式で説明できます。すなわち、電離して生じた炭酸水素イオンHCO3–のごく一部が水と反応して、水酸化物イオンOH–を生じる結果、塩基性になります。
- 重曹水溶液が塩基性(アルカリ性)を示す理由
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- NaHCO3 → Na+ + HCO3–
- HCO3– + H2O ⇄ H2CO3 + OH–
ただし、重曹水溶液のpHは、濃度にもよりますがだいたい8台前半であり、ごく弱い塩基性です。
ごく弱い塩基性しか示さないため、アルカリのなかでも重曹は安全性が高く扱いやすい物質だと言えます。
一方、ごく弱い塩基性のために、油汚れ(油脂)を分解したりすることはできません。よく「重曹で油汚れが中和できる
」などといわれていますが、いろいろと間違った情報です。重曹による油汚れの分解は、基本的に無理だと考えた方がよいでしょう。
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重曹を加熱すると分解し二酸化炭素が発生
重曹(炭酸水素ナトリウム)は加熱により、炭酸ナトリウム、二酸化炭素、水へと分解します。
- 重曹の熱分解の化学反応式
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- 2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
この反応は、固体(粉末の重曹)でも重曹水溶液でも、加熱をすると起こります。
重曹水溶液を加熱した場合は、より塩基性(アルカリ性)が強い炭酸ナトリウムに変化するため、pHが上昇します。
そのため、「重曹水を加熱すると洗浄力がアップする
」といった情報が流れるケースも多いです。
これは化学的には正しい情報ですが、光熱費や手間がかかったり、反応が完結するタイミングが分かりにくいことから、あまり実用的な方法とは言えないでしょう。
市販の炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を水に少量溶かせば、安価で手間なく、同じ水溶液が調製できます。塩基性が強いので、しつこい油汚れのつけ置きなどにも向いています。ただし、なるべく素肌に触れないように注意が必要です。
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固体の重曹が熱分解する様子
カナダで化学を紹介しているYouTuberの方が公開している、重曹の熱分解の動画を下に共有します。重曹から気体が発生している様子がよく分かります。
- How to make Sodium Carbonate (from Sodium Bicarbonate)(訳:重曹から炭酸ナトリウムを作る方法)
重曹は酸と反応して炭酸が発生し発泡する
重曹は、酸を中和する働きがあります。例えば、酢の成分である酢酸と重曹の化学反応式は次のとおりです。
- 酢酸と重曹(炭酸水素ナトリウム)の化学反応式
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- CH3COOH + NaHCO3 → CH3COONa + H2CO3
この反応は、「弱酸の遊離」と呼ばれる形式の化学反応であり、炭酸(H2CO3)が生じます。炭酸はさらに水と二酸化炭素に分解して、発泡が起こります。
炭酸が分解する反応は、発熱反応ではなく、その逆の「吸熱反応」です。そのため、重曹による酸の中和では、中和熱による温度上昇を打ち消す効果があります。
重曹はこうした特徴に加え、扱いやすく安価な物質でもあるため、酸の中和剤として利用されることも多い物質です。
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重曹は「酸として」働くこともある
重曹の水溶液は塩基性(アルカリ性)です。しかし、強い塩基に対しては、重曹が「酸」として働くこともあります。
例として挙げられるのは、重曹と水酸化ナトリウム(NaOH)の反応です。
- 重曹(炭酸水素ナトリウム)と水酸化ナトリウムの化学反応式
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- NaHCO3 + NaOH → Na2CO3 + H2O
上記の化学反応では、重曹が酸として働いています。つまり、強塩基である水酸化ナトリウム(から生じる水酸化物イオンOH–)に対して、重曹が水素イオンH+を与えているのです。
重曹の化学式NaHCO3には、水素原子(H)が含まれます。この水素原子は次式のように、炭酸が水酸化ナトリウムで中和さる際に、完全に中和されずに残った水素原子だと見なせます。
H2CO3 + NaOH → NaHCO3 + H2O
NaHCO3のHは炭酸に由来するため、酸として(H+として)働きうるのです。
多価の酸(2価以上の酸)の塩のうち、完全には中和されずに酸性の水素原子を残した塩を「酸性塩」と呼びます。重曹は酸性塩です。(これに対してNa2CO3のような塩は正塩と呼びます。)
酸性塩という名称は、その物質の水溶液が酸性かどうかとは関係がありません。酸性の水素原子が残っており、塩基に対して「酸として働きうる」塩のことです。
このように、ある物質の水溶液の液性(酸性や塩基性)と、酸塩基反応において酸と塩基のどちらとして働くかは、必ずしも一致しません。
重曹の用途や使い道を化学的に解説
重曹は料理や日用品など、身近なところでも使われている物質です。この章では、重曹が使われている「ベーキングパウダー」「入浴剤」「あく抜き」「掃除」の4つの例を紹介します。
ベーキングパウダー(ふくらし粉)
ベーキングパウダーとは、お菓子やパン作りで、生地を膨らませるために使われる膨張剤です。ベーキングパウダーは、基剤となるデンプン粉末に、炭酸水素ナトリウム(重曹)と酸が混合されています。
古くから、生地を膨らませるにはイースト(酵母)による発酵が利用されてきました。発酵に伴いゆっくりと二酸化炭素が生じて、生地が膨らむのです。
ベーキングパウダーを利用する場合は、イーストによる発酵よりも短時間で気体が発生します。手間が短縮できるだけでなく、発生した気泡を長時間維持できない「粘りの弱い生地」でも膨らませられることが利点です。
生地にベーキングパウダーが混ぜられると、生地の水分で溶解した重曹と酸が反応し、発生する気体(二酸化炭素)が生地を膨らませます。
生地や材料が酸を含んでいれば、ベーキングパウダーでなく、重曹を単独で膨張剤に用いることも可能です。例えば、ヨーグルトやバターミルクなどの発酵乳(乳酸)、果汁(クエン酸・リンゴ酸・酒石酸など)を使うレシピが該当します。
膨張剤としてベーキングパウダーや重曹を使う場合、失敗を防ぐために、多すぎず少なすぎない適量を加えましょう。しっかり混合して溶け残りを防ぐことも重要です。
発泡入浴剤やバスボム
発泡性の入浴剤には、炭酸水素ナトリウム(重曹)とフマル酸やコハク酸などの有機酸が用いられます。
基本的な原理はベーキングパウダーと同じく、重曹と酸の反応で発生した炭酸が分解して、二酸化炭素となり発泡します。
こうしたタイプの入浴剤は、簡単に自作も可能です。近年では、重曹とクエン酸を混合して作る「バスボム」がよく紹介されています。
山菜や野菜のあく抜き
重曹は、山菜や野菜などのあく抜きにもよく用いられます。こうした用途ではよく、重曹は「タンサン」と呼ばれます。
重曹によるあく抜きが適する山菜としては、ワラビ、ゼンマイ、ヨモギなどが代表的です。あく抜きでは、お湯に少量の重曹を加えて茹でる処理を行います。
お湯を沸騰させると、重曹は炭酸ナトリウムに変化し、強めの塩基性(アルカリ性)を示します。
アルカリ性条件下で植物を茹でると、細胞壁のペクチンやヘミセルロースが溶けやすくなり軟化して、あく成分が溶出しやすくなるのです。
重曹を使った野菜や山菜の下処理には、デメリットもあります。舌触りがヌルヌルしたり、苦味が生じる場合も多いです。重曹の分量が過剰にならないよう注意し、信頼できるレシピや手順にきっちり従うとよいでしょう。
ちなみに、この重曹と同じ用途で、古くから木灰や藁灰が用いられてきました。
植物はカリウム塩が豊富で、灰には炭酸カリウムが多く含まれます。そのため植物を燃やした灰を使うと、重曹や炭酸ナトリウムの代わりとなるのです。
掃除
重曹は掃除に用いられることが多くなりました。確かに、上手く使えば便利ですが、過信は禁物です。
重曹に、化学的な作用で汚れを落とす効果は、ほとんど期待できません。
よく「酸性の汚れを重曹で中和
」と言われますが、化学に基づいた理屈ではないのです。主要な家庭の汚れのうち、本当に重曹で中和して落とせる汚れは、脂肪酸を除けば皆無でしょう。
確かに一般的には、洗浄液の液性が塩基性だと、タンパク汚れや炭水化物の汚れなどを除去しやすくなります。しかし、重曹水溶液では塩基性が弱すぎて、大きな効果は期待できません。
塩基性では油脂の分解(鹸化)も起こりますが、やはり強塩基性でない限り、ほぼ進行しない化学反応です。
重曹水溶液のpHは8台の前半です。ただの重曹水溶液に高い効果があると考えるのは、あまり合理的とは言えません。多くの場合、水と重曹水溶液の洗浄力は大差がないでしょう。
ただし、重曹の研磨剤(クレンザー)代わりの使用はおすすめで、筆者もよく利用しています。
まとめ・参考文献
重曹(炭酸水素ナトリウム)の化学式NaHCO3は、炭酸水素イオンとナトリウムイオンから成る塩であることを表しています。重曹の性質や化学反応については、とくに炭酸水素イオンに着目すると理解しやすいです。
重曹は、安全性が高く安価な物質であり、多くの用途があることから、家庭内でも様々な場面で利用されます。