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油汚れは重曹・セスキで落ちません!実験して解説【皮脂は例外】

重曹やセスキ炭酸ソーダでは、油汚れは落ちない。

重曹やセスキ炭酸ソーダは油汚れに効果的とされています。科学的な根拠は乏しく、「汚れは中和すると落ちる」という疑似科学に基づいた迷信と考えてよいでしょう。

実際には、油汚れへの洗浄効果はほとんど一切期待できません。重曹のような弱いアルカリでは、油汚れの主成分である油脂と、特に化学反応を起こさないためです。

皮脂だけは例外で、重曹水溶液でも洗浄効果を発揮します。その原理は、皮脂に多く含まれる遊離脂肪酸から、石けんが生じて乳化作用などを示すことによります。

以上のことを、実験を交えて解説します。

重曹で落ちる油汚れと落ちない油汚れ

油汚れは、アルカリで分解して洗浄できます。ただし油汚れの種類により、必要なアルカリ性の強さがまったく異なります。

食品などに由来する油汚れには、とても強いアルカリ性の洗浄液が必要です。

皮脂だけは例外で、重曹やセスキ炭酸ソーダのような弱いアルカリでも洗浄効果があります。

この違いは、油汚れの成分の違いに起因しています。食品由来の油は、成分のほとんどが油脂です。一方、肌の表面を覆う皮脂には、油脂やワックス、スクアレンなどの脂質のほかに、「遊離脂肪酸」が多く含まれていることが特徴です

油汚れの由来による分類
油汚れの由来 食用油など 皮脂
油汚れの成分 大部分が油脂 遊離脂肪酸も含まれる
分解の原理 アルカリによるけん化 遊離脂肪酸がアルカリで
中和されて石けんになる
必要なアルカリ 強いアルカリ 弱いアルカリでもよい

皮脂に多く含まれる遊離脂肪酸は、弱いアルカリでも簡単に中和されて、十分な量の石けんが生じます。その結果、石けんによる洗浄効果が生じるのです。

ほぼ油脂だけを成分とする食品由来の油汚れでは、このようなことは期待できません。

次の章では、2種類の油と重曹水溶液を混ぜた実験の様子をご覧ください。

油汚れへの重曹の効果を実験!2種類の油で比較

重曹は、皮脂の汚れなら落とせますが、そのほかの油汚れには洗浄効果が皆無です。

食用油と皮脂の2種類の油汚れを模した油で、重曹を作用させた際の様子を比較します。

食用油(調理用の植物油をそのまま使用
調理中の油はねなど、食品由来の油汚れを模した油。
脂肪酸を溶かした食用油
遊離脂肪酸を含む皮脂の汚れを模した油。

理論上は、ただの食用油では目立った変化は見られず、単に水と油を混ぜた状態になるはずです。一方、皮脂を模した遊離脂肪酸入りの油は、重曹水溶液を混ぜると石けんが生じて、乳化した様子が観察できるでしょう。

脂肪酸にはラウリン酸(炭素数12の飽和脂肪酸)を用いました。脂肪酸入りの油は、食用油7.50gにラウリン酸の粉末2.50gを混ぜて均一に溶かし、ラウリン酸濃度が25%になるよう調製しました。

①フレーク状のラウリン酸固体。②乳鉢と乳棒で粉末化。③食用油に加える。④溶解させ均一な溶液に
脂肪酸入りの食用油の調製は、ラウリン酸を粉末にして食用油に加え、均一に溶解させた。

2種類の油と5%重曹水溶液を用いて、重曹を油に作用させた際の様子を観察します。
実験に用いる2種類の油と重曹水溶液。

実験①普通の食用油×重曹

食用油0.5mLの入った試験管に、5%重曹水溶液3mLを加えました。水と油を混ぜたときのように、特に変化は見られません。
食用油に重曹水溶液を添加しても、単に水と油を混ぜた場合と同じように混ざり合うことはなく、目立った変化は見られない。

よく振り混ぜても、一時的に油滴は細かくなりますが、放置すると元に戻ります。

食用油の主成分である油脂は、強いアルカリを使えばゆっくりと分解が進みます。しかし、重曹のような弱いアルカリでは分解がほとんど一切起こりません。

また、アルカリ自体には油脂を乳化するような作用もありません。

通常の油汚れに重曹を使っても、これといって何も起こらず、目立った変化は見られないのです。

実験②皮脂を模した脂肪酸を含む油×重曹

25%のラウリン酸を溶かした油0.5mLの入った試験管に、5%重曹水溶液3mLを加えました。脂肪酸の中和で生じた石けんにより泡立ち、上層にある油脂は石けんにより乳化されて白く不透明になりました。
皮脂を模した油に重曹水溶液を加えた直後、石けんが生成して溶液が泡立った。全体的に白っぽく乳化した様子も観察できた。

試験管を振り混ぜて10秒ほど撹拌するとさらに泡立ち、単に水と油を混ぜた場合とは全く異なる様子が観察できました。下の写真は、泡立ちが分かりやすいよう、試験管を斜めに固定して撮影したものです。
よく撹拌すると、非常によく泡立ち、多量の石けんが生じたことが示唆された。あたかも洗剤などを加えたような見た目ですが、試験管に入れたのは、先に調製した皮脂を模した油と重曹水溶液のみです。遊離脂肪酸は、アルカリの作用で簡単に石けんになることが分かります。

石けんとは、今回の実験ではラウリン酸ナトリウムのことです。植物油に添加したラウリン酸と重曹の間では、以下のような化学反応(中和反応)が起こり、石けん(ラウリン酸ナトリウム)が生成しています。
皮脂を模した油中のラウリン酸は、重曹との反応で、石けんであるラウリン酸ナトリウムになる。

ネット上や書籍に多い「汚れを中和して落とす」という話は、大部分が化学に反する説明です。しかし、皮脂中の遊離脂肪酸とアルカリの反応は、この「中和」を用いた説明が例外的に当てはまります。

結果と考察:重曹は食用油の汚れを落とせない

重曹水溶液を普通の食用油に加えても、目立った変化は観察できませんでした。もし、重曹が油汚れに効果的であるなら、乳化などの変化が観察できたはずです。

重曹は、キッチン回りの油汚れなど、大抵の油汚れには向かないといえるでしょう。油脂の分解や乳化などの作用は期待できず、期待できるとすれば、重曹粉末を研磨剤代わりにするような物理的作用に限られます。

ただし、重曹水溶液を皮脂を模した油に加えた場合には、溶液の泡立ちや油分の乳化など、界面活性剤に特有の現象が見られました。遊離脂肪酸から石けんが生じるためです。

遊離脂肪酸が多く含まれる皮脂は、油汚れの中で例外的な存在です。つまり重曹は、基本的には油汚れに効果がないものの、皮脂だけには効果があるといえます。

「油脂」と「遊離脂肪酸」について解説

油汚れの性質を理解するうえで、「油脂」と「脂肪酸」の2つの脂質が重要です。

油脂
  • 動植物の脂肪や油の成分。
  • 脂肪酸とグリセリンが縮合したもの。
  • 中性脂肪とも呼ばれる。
  • 強アルカリや酵素などで分解される。
脂肪酸(遊離脂肪酸)
  • 鎖状の分子で、端にカルボキシ基を持つ。
  • 酸としての性質がある。
  • アルカリで中和すると石けんになる。

油脂と脂肪酸をイラスト化して、3枚の画像で解説します。

油脂は、3つの脂肪酸分子がグリセリンを介して縮合した分子構造です。脂肪酸と異なり、酸としての性質はありません。

油脂と違って脂肪酸は弱アルカリとも化学反応を起こして、石けんができる。油脂と脂肪酸のどちらも、アルカリと反応して石けんを生じます。しかし、油脂はけん化という反応で分解される一方、脂肪酸では中和反応が起こります。
中和反応は弱いアルカリでも起こりますが、油脂のけん化には強アルカリ性を要するため、同じアルカリによる分解でも同一視はできません。

食用油はほとんどが油脂であり弱アルカリと反応しないが、遊離脂肪酸が多く含まれる皮脂は弱アルカリとも反応して石けんを生成する。食品由来の油汚れは油脂が主成分です。これに対して皮脂は、油脂や遊離脂肪酸のほか、様々な脂質から構成されています。
皮脂には遊離脂肪酸が含まれていることが、弱アルカリでも洗浄効果を発揮する理由です。

油脂と脂肪酸の違いを、アルカリによる油汚れ洗浄の観点から下表にまとめます。

油脂と脂肪酸の油汚れとしての性質の違い
油汚れの成分 油脂 脂肪酸
性質 酸ではない 酸である
分解の原理 けん化 中和反応
必要なアルカリ 強アルカリ 弱アルカリでもよい
必要な時間 長時間かけて進行 速やかに進行
必要な温度 加熱なしでは非常に遅い 常温でも進行

油汚れに重曹は「数万人分の仕事を一人に任せる」くらい無謀

大抵の油汚れは、アルカリで落とすには「油脂の分解」が必要です。この油脂の分解には、強いアルカリ性を要します。

重曹のように弱いアルカリで油脂を分解しようとするのは無謀な話です。どのくらい無謀かというと、数万人で行うような大きな仕事を一人に任せるようなものです。

アルカリ性の水溶液とは、水酸化物イオン(OH)濃度が高い水溶液のことで、濃度が高いほどアルカリ性は強くなります。

この水酸化物イオン(OH)こそが油脂の分解を引き起こすため、その濃度、つまり洗浄液のアルカリ性の強さが油脂の分解速度に直接影響します。

油脂を分解洗浄するには洗浄液のpHが、最低でも12ほどか、できれば13以上あるのが望ましいでしょう。これに対して、重曹水溶液のpHは濃度にもよりますが、目安として8.2〜8.3程度です。

pHが1違うと、OHの濃度は10倍違います。例えばpHが8と13では、OHの濃度差は10万倍です。
pHが1大きくなる毎に、水酸化物イオンの濃度は10倍になる。重曹やセスキ炭酸ソーダ水溶液は、油汚れを落とすのに必要な水酸化物イオン濃度に遠く及ばない。

重曹の水溶液をpH8.3とすると、油脂がまずまず効率よく分解できるpH13と比べて、OHの濃度差が約5万倍あります

油脂の効果的洗浄に必要なpHを13とすると、重曹水での油汚れ掃除は、5万人で取り組むべき仕事を1人でやるようなものなのです。

理論上は極めてゆっくりと分解が進もうとも、現実的には役に立たないといえます。

セスキ炭酸ソーダ水溶液(pHが9.8とする)でも、pH13とは1500倍以上のOH濃度差があり、最低限の目安として挙げたpH12に比べても150倍以上の濃度差です。

重曹に比べればアルカリ性の強いセスキ炭酸ソーダでも、やはり油汚れに効果があるとは言い難いでしょう。

まとめ・参考文献

アルカリは油脂の分解作用を持ちますが、強アルカリ性に限られます。

重曹水を使って掃除をしても、油汚れを落とすメカニズムが特に存在せず、単なる水拭きや水洗いと大差がありません。セスキ炭酸ソーダでも、重曹とほぼ同様のことがいえます。

唯一、皮脂には重曹などの弱アルカリでも洗浄効果が得られます。

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