ハイターやキッチンハイターの成分と漂白の仕組み
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ハイターの漂白成分は「次亜塩素酸ナトリウム」という物質です。
この次亜塩素酸ナトリウムは、色素や汚れを酸化して、化学的に分解します。界面活性剤のように汚れを引き剥がすのではなく、色素や汚れを分解してしまうのがハイターの漂白の仕組みです。
ハイターには他にも、水溶液をアルカリ性に保つ水酸化ナトリウムや、キッチンハイターには界面活性剤も配合されています。
この記事では化学の知識を持つ筆者が、ハイターやキッチンハイターの成分や漂白の仕組み、適する汚れや素材を詳しく解説します。
塩素系漂白剤は、酸性洗剤などと混ぜると有毒な塩素ガスが発生する恐れがあります(まぜるな危険)。製品ラベルをよく読んでお使いください。日本家庭用洗浄剤工業会の「安全に使うために」も参考になります。
この記事は、から公開していた「ハイターについて徹底解説!使うコツから成分の科学まで」の記事をリニューアルしたものです。
ハイターやキッチンハイターの成分
ハイターやキッチンハイターは、花王のつけ置きタイプの塩素系漂白剤です。

ハイターやキッチンハイターには、漂白作用を持つ「次亜塩素酸ナトリウム」と、その安定性や働きを助ける成分が配合されています。
| 成分 | 役割 | 備考 |
|---|---|---|
| 次亜塩素酸 | 漂白成分 | 製造時の濃度 |
| 水酸化 |
| 原液のpHは |
| 界面活性剤 |
| キッチンハイター |
これらの成分について、順番に解説します。
成分①次亜塩素酸ナトリウム(漂白成分・製造時6%)
次亜塩素酸ナトリウムこそが、塩素系漂白剤としての有効成分です。
ハイターやキッチンハイターに限らず、液体や泡スプレータイプの塩素系漂白剤やカビ取り剤には、ほぼ例外なく次亜塩素酸ナトリウムが用いられています。
- 次亜塩素酸ナトリウムとは?
- 化学式はNaClO。
- 酸化剤であり、他の物質を酸化する性質がある。
- 色素を分解したり、雑菌を除去したりできる。
- 水道水の塩素消毒にも用いられている物質。
- 固体は不安定なため、水溶液として用いられる。
- 次亜塩素酸ナトリウム水溶液は弱いアルカリ性を示す。
- 水溶液がアルカリ性だと安定だが、酸性だと不安定になる。
- 水溶液がアルカリ性でも、保管中にわずかに分解していく。
ハイターやキッチンハイターには、6%の次亜塩素酸ナトリウム(製造時)が配合されていることが、花王より公表されています。
この次亜塩素酸ナトリウムが色素や汚れを化学的に分解するため、ハイターやキッチンハイターは漂白剤として機能します(詳しい原理は後述)。
成分②水酸化ナトリウム(成分を安定に保つアルカリ剤)
ハイターやキッチンハイターには、次亜塩素酸ナトリウムを安定に保つために、強アルカリである水酸化ナトリウムも配合されています。
- 水酸化ナトリウムとは?
- 化学式はNaOH。苛性ソーダとも呼ばれる。
- 強アルカリ(強塩基)であり、水溶液は強いアルカリ性を示す。
- 濃い水溶液は、油脂やタンパク質を分解できる。
- 油汚れを落とす業務用洗浄剤などにも配合されている。
ハイターやキッチンハイターの水酸化ナトリウム濃度は、公式には公開されていません。しかし、「洗浄剤・漂白剤等安全対策協議会」の資料によると、スプレー製品を除く塩素系漂白剤には、一般に1~2%の水酸化ナトリウムが配合されています。
また、花王の業務用製品の安全データシートから、家庭用のハイターやキッチンハイターも、原液のpHは13~13.5程度だと考えられます。
ハイターやキッチンハイターに配合される水酸化ナトリウムは、保存性と安全性の両面に関わっています。
- 保管時の保存性
- 数か月間などの長期保管でも、水酸化ナトリウムが溶けた強アルカリ性の水溶液なら、次亜塩素酸ナトリウムの分解は最低限に抑えられる。
- 使用時の安全性
- 使用時にも、水酸化ナトリウムが配合されていることで、微量の酸が加わった場合などの安全性も確保されている。
(ただし、意図的に酸性の洗剤や物質を混ぜてはいけない。)
なお、ハイターやキッチンハイターの使用時は、水酸化ナトリウムが油脂などを分解して、汚れを落とすこともあります(詳しくは後述)。
成分③界面活性剤(キッチンハイターに配合)
キッチンハイターには、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)という界面活性剤が配合されています。
- 界面活性剤とは?
- 石けんや合成界面活性剤などの、水の表面張力を低下させる物質のこと。
- 洗う物の表面や繊維の奥へ、漂白液が浸透するのを助ける。
- 汚れを落としたり、落ちた汚れの再付着を防いだりする働きもある。
漂白において、界面活性剤は以下のような働きをします。
- 漂白液の浸透を助ける
- 漂白液が洗う物の表面や繊維の奥へ浸透するのを助けて、漂白ムラを防ぐ。
(水は界面活性剤がないと、樹脂などの表面ではじかれやすく、繊維にも浸透しにくい。) - 汚れを落とす
- 軽い汚れを落とすほか、落ちた汚れの再付着を防ぐ働きもある。
なお、衣料用のハイターには界面活性剤が配合されていません。中性・アルカリ性の洗濯洗剤と併用することで、効果的な漂白が行えるように設計された製品です。

漂白における界面活性剤の働きや、ハイターとキッチンハイターの違いは、以下の記事で詳しく解説しています。
ハイターやキッチンハイターの漂白の仕組み
ハイターやキッチンハイターは、次亜塩素酸ナトリウムが色素や汚れを酸化して分解することで、漂白・洗浄を行います。
ただし、洗う素材や汚れによっては、ほかの原理で汚れが落ちることもあります。
この章では、ハイターやキッチンハイターによる漂白や洗浄の仕組みについて解説します。
次亜塩素酸ナトリウムが色素・汚れを酸化する
ハイターやキッチンハイターに含まれる次亜塩素酸ナトリウムは、他の物質を酸化する「酸化剤」であり、色素や汚れを酸化して分解します。
界面活性剤の働きを主とする洗剤(洗濯洗剤や台所用洗剤など)と比べると、汚れを引き剥がして落とすのではなく、色素や汚れの成分を分解する点が大きな違いです。
「分解する」といっても、水や二酸化炭素などの小さな分子へ分解するというより、有機物を部分的に分解して、色をなくしたり、水に溶けやすくしたりする場合が多いです。
なお、ハイターなどの塩素系漂白剤が「汚れを酸化して分解する」点は、酸素系漂白剤とも共通しています。
ただし、次亜塩素酸ナトリウムは、酸素系漂白剤と比べても強い酸化力があり、漂白剤の中でもとくに強力な漂白が行えます。
ハイターなどの塩素系漂白剤は、一般に「洗浄剤」に分類され、法令上の分類も、界面活性剤を主とする「合成洗剤」とは異なります。
家庭用品品質表示法では、洗濯洗剤や台所用洗剤が属する「合成洗剤」と、塩素系漂白剤などが属する「住宅用又は家具用の洗浄剤」が明確に区別されています。
- 合成洗剤
- 主な洗浄作用が界面活性剤の作用によるものを指す。
- 洗濯洗剤、台所用洗剤、浴室用洗剤などが該当する。
- 住宅用又は家具用の洗浄剤
- 主な洗浄作用が酸やアルカリ、酸化剤の作用によるものを指す。
- 塩素系漂白剤や酸素系漂白剤のほか、酸やアルカリを主成分として汚れを落とすものも該当する。
詳細な定義は、消費者庁のウェブページをご覧ください。
【補足】他の原理で汚れが落ちることもある
ハイターやキッチンハイターは、主に酸化による分解で漂白・洗浄を行いますが、ときには他の原理で汚れが落ちることもあります。
他の原理としては、強アルカリによる油脂の分解や吸着置換などが挙げられます。
以下に概要を解説しています。
強アルカリによる油脂などの汚れの分解
ハイターやキッチンハイターには、水酸化ナトリウムが配合されているため、油脂が分解(けん化)されて落ちることもあります。
ただし、油脂のけん化は、水酸化ナトリウムのような強アルカリでも、希薄な水溶液では起こりにくい化学反応です。
例えば、ハイターやキッチンハイターの原液を100倍希釈すると、pHはおよそ11程度まで下がり、油脂のけん化はあまり効果的には起こりません。
吸着置換による汚れの除去
塩素系漂白剤における吸着置換とは、洗う物の表面に付着した汚れが、次亜塩素酸イオンや水酸化物イオンに置き換わって除去されることを指します。
吸着置換は、以下の条件を両方とも満たしている場合に効果的に起こります。
- 洗う物の表面が親水性である
- ステンレス・ガラス・陶器などは吸着置換が起こりやすい一方、樹脂・プラスチック製品などでは起こりにくい。
- 親水性の汚れである
- タンパク質などの汚れは親水性であることが多く、吸着置換が起こりやすい。一方、油汚れのような疎水性の汚れでは起こらない。
洗う素材と汚れの種類が限定されるため、吸着置換が効果的に起こるケースは限られます。
ハイターやキッチンハイターが適する汚れや素材
ハイターやキッチンハイターは、強力な漂白力がありますが、どんな汚れでも落ちるわけではありません。
また、漂白力が強い一方、使えない素材などもあるため注意が必要です。
ハイターやキッチンハイターに適している汚れと素材について、順に解説します。
ハイターで落ちる汚れと落ちない汚れ
ハイターやキッチンハイターは、主に有機物を酸化して漂白・洗浄を行います。
例えば、生物が作り出す色素やタンパク質などによる汚れやシミに、とくに効果的です。
一方、例えば泥汚れは無機物の粒子であって、ハイターでは分解できず効果がありません。
- ハイターで落としやすい
- ハイターで多少は落とせる
- 油汚れ(詳細は後述)
- ハイターで落としにくい
ハイターは衣類の生乾き臭も除去できる
ハイターやキッチンハイターは、衣類やふきんなどの生乾き臭の除去や予防にも効果的です。
生乾き臭は、湿った繊維の中で繁殖した雑菌が作り出す悪臭物質が原因です。
生乾き臭の、以下の3つの原因をなくすことで除去・予防ができます。
- 雑菌の栄養源となるタンパク質や皮脂
- すでに雑菌が作り出している悪臭物質
- 悪臭物質を作り出す雑菌
通常の洗濯だけでは、こうした雑菌や栄養源、臭気物質を十分に取り除くのが難しい場合もあります。
ハイターやキッチンハイターなら、雑菌を殺菌し、栄養源を分解し、さらに悪臭物質そのものも分解することで、嫌な臭いを根本から取り除けます。
ただし、色柄ものには塩素系漂白剤は使えないので、ワイドハイターなどの酸素系漂白剤を使うとよいでしょう。とくに粉末の酸素系漂白剤なら、色柄ものにも使えて、それなりに強い漂白力もあります。
ハイターが使える素材と使えない素材
ハイターやキッチンハイターの成分である次亜塩素酸ナトリウムは強い酸化剤で、水酸化ナトリウムは強アルカリです。
そのため、酸化剤やアルカリに弱い素材は、劣化や変色が起こることがあります。
以下に化学的な観点で、ハイターなどの塩素系漂白剤が使えない素材と使える素材をまとめます。
ハイターが使えない素材
- ステンレス以外の金属(鉄・銅・アルミなど)
- 酸化剤やアルカリにより、錆び・変色・腐食が生じる。
- 動物繊維(毛・絹)
- アルカリでタンパク質が変質し、縮みや傷みの原因になる。
- 一部の合成繊維(ナイロン、アセテート、ポリウレタンなど)
- 酸化剤やアルカリで繊維が劣化し、弾力や光沢が失われる。
- メラミン樹脂・漆器など
- 酸化剤で表面が変質しやすい。
ハイターが使える素材
まとめ・よくある質問・脚注・参考文献
ハイターやキッチンハイターの漂白剤としての成分は「次亜塩素酸ナトリウム」です。他の物質を酸化する性質を持ち、漂白では、色素や汚れを酸化して分解します。
さらに、次亜塩素酸ナトリウムの安定性を助ける「水酸化ナトリウム」や、キッチンハイターには漂白液の浸透を助ける「界面活性剤」も配合されています。
ハイターやキッチンハイターは、生物が作り出す色素やタンパク質などによる汚れやシミに、とくに効果的です。
よくある質問
よくある疑問や質問に回答します。
「次亜塩素酸ナトリウム」が漂白剤の成分(物質)の名称である一方、「ハイター」は次亜塩素酸ナトリウムを含む漂白剤につけられている製品名です。
ハイターやキッチンハイターは次亜塩素酸ナトリウムが主成分の漂白剤です。
油汚れは、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤で酸化して落とせるわけではありません。しかし、ハイターやキッチンハイターに含まれる強アルカリ(水酸化ナトリウム)によりある程度は落とせることが多いです。
ただし、グリスやエンジンオイルなどの鉱物油には効果がありません。
塩素系漂白剤であるハイターやキッチンハイターと、酸素系漂白剤であるワイドハイターは、漂白成分が異なります。
ハイターやキッチンハイターの漂白成分が「次亜塩素酸ナトリウム」であるのに対し、ワイドハイターの漂白成分は「過酸化水素」や「過炭酸ナトリウム」です。
ワイドハイターは、色柄ものにも使えて、「まぜるな危険」にも該当しませんが、漂白力はハイターやキッチンハイターよりも劣ります。