過炭酸ナトリウムは、代表的な酸素系漂白剤です。この「過炭酸ナトリウム」という物質名は、よく「過酸化ナトリウム」と間違われます。
過酸化ナトリウムは、決してご家庭にはない物質であり、激しい化学反応性を有します。可燃物と混合すると、自然発火して火柱を上げたり、爆発したりするような物質です。
この記事では、過酸化ナトリウムと過炭酸ナトリウムの違いや、過酸化ナトリウムの性質を解説。また、イギリス王立化学会が公開している、過酸化ナトリウムと、朝食などに食べるシリアルを混ぜた実験動画も紹介しています。
過酸化ナトリウムと過炭酸ナトリウムの違い
過炭酸ナトリウムと過酸化ナトリウムは、どちらも酸化剤としての性質を持つナトリウム化合物です。しかし、その反応性の高さには大きな差があり、用途も大きく異なります。
- 過炭酸ナトリウム
- 一般向けに漂白剤として販売されている。穏やかな化学反応性を持つ。
- 過酸化ナトリウム
- 研究や工業用に用いられる。非常に激しい化学反応性を持つ。
過炭酸ナトリウムは、漂白剤として使われる固体で、粉末タイプの酸素系漂白剤の成分です。普通の洗剤と同じように、誰でも簡単に購入できます。また、漂白剤として単独で売られているだけでなく、粉末タイプの洗濯洗剤に配合されていたりします。
一方、「過酸化ナトリウム」という物質は、一般の人はまず入手できません。日本では、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。
非常に高い化学反応性があり、水とも激しく反応して分解します。また、有機物と混合すると、発火や爆発が起こります。
- 過炭酸ナトリウムと過酸化ナトリウムの違い
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物質 過炭酸ナトリウム
sodium percarbonate過酸化ナトリウム
sodium peroxide化学式 2Na2CO3・3H2O2 Na2O2 性状 白色の固体 白色~黄色の固体 水との反応 水に溶解した後に、酸素の泡を出しながらゆっくりと分解する。 水と激しく反応し、水酸化ナトリウムと過酸化水素に分解する。 消防法での扱い 危険物第1類(酸化性固体) 毒物及び劇物取締法での扱い 対象外 劇物
過酸化ナトリウムとは?【実験動画も紹介】
過酸化ナトリウムは、化学式Na2O2で表される物質で、名前のとおりナトリウムの過酸化物です。金属ナトリウム(ナトリウムの単体)が燃焼したときに生成します。
過酸化ナトリウムには、以下のような性質があります。
- 水と激しく反応して、発熱しながら水酸化ナトリウムと過酸化水素に分解する。
- 強力な酸化剤であり、有機物や金属と激しく反応する。
こうした性質から、過酸化ナトリウムが有機物と混ざると、条件次第で容易に自然発火します。
下に、イギリス王立化学会が公開している、観衆に向けた実験の様子を収めた動画を共有します。動画中では、ライスクリスピー(朝食などで食べられるシリアル)と過酸化ナトリウムを混ぜた後、少量の水が加えられています。
米を原材料とするライスクリスピーは、主にデンプンなどの有機物でできており、酸化剤により酸化されます。しかし、乾燥した固体であるため、同じく固体である過酸化ナトリウムと混ぜただけでは、なかなか化学反応は起こりません。
水を少量加えると、過酸化ナトリウムが水と激しく反応して、発熱を伴って過酸化水素が生じます。過酸化水素も酸化剤であり、有機物を酸化する性質があります。さらに、過酸化水素は高温になると急速に分解して、酸素(O2)を発生します。
こうして、水がかかった付近のライスクリスピーは、過酸化水素や酸素などの酸化剤が豊富に存在し、かつ高温の環境に置かれます。これは、非常に燃焼に適した条件であり、容易に自然発火が起こるのです。
まとめ・参考文献
過炭酸ナトリウム関連のネット記事や通販ページでは、しばしば「過酸化ナトリウム
」と誤って表記されています。例えば、過酸化ナトリウムを使う洗濯や掃除の方法
が紹介されていたり、「過酸化ナトリウム」という表記で漂白剤が売られていたりします。
これらの表記は明らかに誤りで、過酸化ナトリウムは一般の人が扱うような物質ではありません。衣類のしみ抜きなどに使えば、しみを容易に分解できますが、同時に衣類ごと分解されます。
漂白剤に使われるのは、過酸化ナトリウムではなく「過炭酸ナトリウム」です。