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クエン酸の食用と掃除・工業用の違いは「純度」ではない

クエン酸の食用と掃除・工業用の違いは「純度」ではない

市販されているクエン酸の規格は、「食品添加物」「第3類医薬品」「その他(掃除用や工業用)」の3種類に大別できます。

  • 食品添加物や医薬品のクエン酸
    食用にも、掃除や洗浄にも使用可能。
  • その他(掃除用や工業用)のクエン酸
    食用には不適。掃除や洗浄用としての効果はほかのクエン酸と同等。

しかし、これらのクエン酸の具体的な違いについては、誤解を招くような説明や誤った情報も出回っています

そこで、この記事では、クエン酸の規格による違いについて、化学の知識を持つ筆者が解説します。

クエン酸の規格による分類と純度

まずは、クエン酸の規格による分類と、規格ごとの純度について解説します。

クエン酸の規格【医薬品・食品添加物・掃除用や工業用】

市販されているクエン酸の規格は、食品添加物、医薬品、どちらにも該当しない製品(掃除用や工業用など)の3つに分類できます。

  • 主な公的規格としては「食品添加物」と「医薬品」のクエン酸がある(食用可)
  • その他のクエン酸は一般に、掃除用や工業用などと呼ばれている(食用不可)

掃除用や工業用のクエン酸は食用には使えません。

医薬品や食品添加物のクエン酸なら、食用にも、掃除などの用途にも使えます。

規格とは別に、化学的分類としては、クエン酸には「クエン酸無水物」と「クエン酸一水和物」の2種類が存在します

いずれの規格のクエン酸にも、無水物の製品と一水和物の製品があります。

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なお、医薬品(第3類医薬品)のクエン酸は、主に薬の調剤に用いられます。薬局などで市販されていることもありますが、食品添加物のクエン酸に比べると少しマイナーな存在です。

そのため、医薬品のクエン酸については、記事後半では説明を一部省略しています。

クエン酸の規格ごとの純度

「クエン酸は純度が高い方から順に医薬品・食品添加物・工業用の3つに分類される」という情報がネット上に多く存在します。これは、事実とは異なる誤った情報です。

まず、医薬品と食品添加物の規格は互いに独立しています。例えば、「医薬品に満たない品質のものが食品添加物に分類される」といった仕組みではありません。

日本薬局方、もしくは食品添加物公定書で定められた多数の基準を満たした製品だけが、それぞれ医薬品や食品添加物として販売されています。

クエン酸の場合はどちらの規格でも、99.5%以上の純度が必要とされています。つまり、医薬品と食品添加物のクエン酸で、規格上の純度の下限に差はありません

掃除用や工業用などのクエン酸では、純度はまちまちです。医薬品や食品添加物と異なり、公的な規格品ではないこともあるためです。

クエン酸の規格と純度
規格純度
医薬品99.5~100.5%
食品添加物99.5%以上
その他(掃除用や工業用)製品による

工業用や試薬(研究や試験用の薬品)のクエン酸でも、医薬品や食品添加物と同等かそれ以上の純度の製品もあります。また、クエン酸には日本産業規格(JIS)も存在します

しかし、掃除用に売られているクエン酸は、公的な規格に沿った製品かどうか明記されていないことも多く、純度が劣る可能性もあります

とはいえ、掃除用や工業用だから純度が低いと決め付けるのは誤りで、製品によります。例えば、食品添加物として製造されたクエン酸が、掃除用として詰め替えて販売されることもあるのです。

医薬品や食品添加物のクエン酸
  • どちらの規格でも純度は99.5%以上。
  • 日本薬局方、または食品添加物公定書で定められた多数の基準を満たしている。
掃除・工業用のクエン酸
  • 純度はまちまち(純度が低いとは限らない)。
  • 安全性が不確かなので食用には適さない(有害物質などが含まれるとは限らない)。

食用(食品添加物)と掃除用・工業用クエン酸の安全性の違い

掃除用や工業用のクエン酸は、食用には使えません。食用には食品添加物(もしくは医薬品)のクエン酸を使うべきです。

しかし、その理由については、ネット上には誤解を生むような情報もあります。例えば、「掃除用・工業用のクエン酸は、純度が低くて不純物が多く、有害であり食用には危険」といった情報です。

先述したように、掃除用・工業用クエン酸の純度が低いとは限りません。さらに、「純度が低いものには有害物質が多く含まれる」と決め付けていることは問題です。非論理的な主張で、誤解や必要以上の不安をまねきます。

純度が低いからといって、有害な物質が多く含まれるとは限りません。純度を決めるうえでは、水のような無害な物質も不純物なのです。

安全性や有害性は、純度だけでは判断できない。

クエン酸の代表的な不純物としては「水」が挙げられます

多くの場合、クエン酸は水から再結晶して精製されます。また、クエン酸には湿った空気中で水分を吸収する「潮解性ちょうかいせい」があります。

そのため、クエン酸は不純物として水を含みやすい物質です。

不純物の水によりクエン酸の純度が下がっても、有害性にはつながりません。このように、純度だけで安全性が決まるわけではないのです。

食品添加物や医薬品のクエン酸は、純度、溶液の着色や不溶物の有無、重金属・シュウ酸・硫酸塩の含有量などの基準が各規格で定められ、適合した製品のみが流通しています。

さらに、食品添加物ではHACCPハサップ(食品の衛生管理手法)に、医薬品ではGMP(医薬品などの適正製造基準)に沿って、厳しい衛生管理のもと製造され、異物や有害物質の混入、微生物による汚染への対策がなされているのです。

掃除用や工業用のクエン酸は、食用にできる規格に従っているとは限らず、厳しい衛生管理がなされているとも限りません。

Q:掃除用や工業用のクエン酸を口にすると危険?

A:害がある可能性も否定はできない。

異物や有害物質などが含まれていたり、十分な衛生管理が行われていなかったりする可能性を考え、口にしてはいけません。

ただし、口にした際の安全性が保証されていないものの、「不純物が多く有害」だと決め付けている情報は誤解を招きます。

万が一、誤って掃除用や工業用のクエン酸を口にして体調が悪くなったら、医療機関を受診してください。

もっとも、どの規格の製品でもクエン酸の製法自体はほぼ同じです。

クエン酸の食用と掃除用で「洗浄作用」に差はない

掃除には、食品添加物のクエン酸も使えます。掃除用でも食品添加物でも、同じ「クエン酸」という物質であり、汚れを落とす能力はまったく同じです。

掃除用のクエン酸だからといって、クエン酸以外の特別な成分が含まれているわけではありません。

「掃除用のクエン酸は粒子が粗く、研磨効果でクレンザーのように使える」という情報もよく目にします。しかし、掃除用クエン酸が、とくに粒子の粗い製品だとは限りません。

先述したように、元々は食品添加物として製造されたクエン酸が、掃除用として販売されるケースも多いです。掃除用のクエン酸の特徴を決め付けている時点で、信憑性のない情報といえます。

そもそも、極めて水溶性の高いクエン酸を研磨剤として使うことは、あまり合理的とはいえないでしょう。

割安に買うなら食品添加物のクエン酸がおすすめ

食用にできない掃除用や工業用のクエン酸は、食品添加物のクエン酸に比べて用途が限られますが、その分だけ価格が安いとは限りません。

クエン酸は、今では発酵法で大量生産される物質で、食品添加物の製品でも安価です。

とくに、ネット通販の食品添加物のクエン酸が、最も割安に購入しやすい傾向があります。

無水クエン酸の価格の目安としては、500 g入りで500円程度、1 kg入りで800円程度までなら、良心的な価格といえるでしょう。

食品添加物のクエン酸は、価格以外に、調理や飲食物にも使える点でもおすすめです。また、電気ポットやケトルなどの食品に使う道具の洗浄でも、食用クエン酸ならより安心して使えます。

最後に、おすすめの食品添加物の無水クエン酸を掲載しておきます。

まとめ・参考資料

食品添加物のクエン酸は、食用以外に、掃除などにも流用できます。一方、掃除用や工業用のクエン酸は、食用には使えません。

ただし、掃除用や工業用のクエン酸は、安全性が不確かなものの有害だと決まっているわけではありません。