過炭酸ナトリウムは、粉末タイプの酸素系漂白剤として使われる物質で、水に溶かすと漂白剤として働きます。様々なメディアで紹介され、利用者が急増した漂白剤です。
しかし、過炭酸ナトリウムについて、特徴や漂白の仕組みをしっかりと解説した情報はあまり存在しません。「発生した酸素が汚れを落とす
」といった誤った情報も流れがちです。
そこで本記事では、過炭酸ナトリウムの「ほかの漂白剤と比べた3つの特徴」と「水に溶けたときに何が起こっているのか」を詳しく解説します。
過炭酸ナトリウムとは?ほかの漂白剤と比べた3つの特徴
過炭酸ナトリウムとは、酸素系漂白剤として代表的な成分です。過炭酸ナトリウム単独でも売られているほか、粉末タイプの酸素系漂白剤の主成分としても配合されています。
過炭酸ナトリウムについてよく理解するには、ほかの漂白剤と比べた特徴を知るとよいでしょう。
この章では、漂白剤全体における過炭酸ナトリウムの分類や特徴を説明し、過炭酸ナトリウムのコストパフォーマンスや漂白力についても解説します。
⒈ 過炭酸ナトリウムとは「酸素系漂白剤の一種」である
漂白剤には様々な種類がありますが、特徴や成分により分類されます。過炭酸ナトリウムは「酸素系漂白剤」の一種であり、粉末タイプの酸素系漂白剤に使われています。
酸素系漂白剤とは、下の画像に示すように、漂白剤全体における分類を表した言葉です。
青枠で囲まれた用語は注釈を表示可能です(スマホではタップ、PCではマウスカーソルを上乗せ)。
漂白剤とは、「酸化」や「還元」により汚れを化学的に分解する洗剤です。このうち、汚れを酸化する「酸化型漂白剤」の方がずっと多く利用されています。
酸化型漂白剤はさらに、塩素系漂白剤と酸素系漂白剤に分けられます。塩素系に比べると、酸素系の漂白力は弱めです。
しかし、酸素系には以下のメリットがあり、使い勝手のよさでは塩素系より優れています。
- 塩素系と比べた酸素系のメリット
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- 色柄物の衣類にも使える
- 有害な塩素ガス発生のリスクがない
- 塩素系に特有の嫌な臭い(いわゆる塩素臭)がしない
塩素系と酸素系では、使用温度にも違いがあります。
- 塩素系漂白剤
- 常温で用いるのが一般的。
- 酸素系漂白剤
- 常温でも漂白作用があるが、温度が上がるとさらに漂白力が向上。
過炭酸ナトリウムなら50 ℃前後での使用がおすすめ。
酸素系漂白剤とは?液体と粉末タイプの違いは?
酸素系漂白剤とは、過酸化水素(H2O2)の作用で汚れや色素を分解する漂白剤のことです。大きく2タイプあり、過酸化水素がそのまま溶けている液体タイプと、水に溶かすと過酸化水素を放出する粉末タイプに分類できます。
日本において、粉末タイプの酸素系漂白剤といえば、過炭酸ナトリウムを漂白成分とする漂白剤を指します。過炭酸ナトリウム単独でも販売されているほか、過炭酸ナトリウムを中心にいくつかの成分を配合した製品もあります。
液体タイプと粉末タイプは、同じ酸素系漂白剤でも多くの違いがあります。両者の特徴を表にまとめます。
- 酸素系漂白剤の液体と粉末タイプの違いと特徴
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以降の説明では、粉末タイプの代表である「過炭酸ナトリウム」について、液体タイプの酸素系漂白剤と比較しつつ解説します。
⒉ 過炭酸ナトリウムとは「コスパがよい過酸化水素の素」である
過炭酸ナトリウムと液体タイプの酸素系漂白剤は、後述するように、適切な使い分けが重要です。
しかしながら、コストパフォーマンスは、酸素系漂白剤としての実体である「過酸化水素」の含有量をもとに比較できます。実際に計算すると、過炭酸ナトリウムの方が、液体タイプより圧倒的にお得です。
液体タイプの酸素系漂白剤では、過酸化水素の濃度は、一般的な(安価な)製品なら3%程度、漂白力の高さを謳った濃い製品でも5%程度であることが多いです。
一方、過炭酸ナトリウムは、炭酸ナトリウムと過酸化水素が2:3のモル比で結びついた物質で、計算上は重さの32.5%が過酸化水素です。
下の画像では、酸素系漂白剤の重量比での組成を円グラフで表しています。
1 kgの過炭酸ナトリウムには計算上、約325 gの過酸化水素が含まれ、濃度5%の液体タイプでは6 L以上に相当する含有量です。
過炭酸ナトリウムは1 kgあたり、安ければ500円くらいでも買えます。一方、濃いめの液体タイプ6 Lを買うと、安くても2千円程度はかかるでしょう。つまり、過炭酸ナトリウムと液体タイプの酸素系漂白剤には、ざっと4倍ほどの価格差があるとも見なせます。
また、液体タイプは水溶液であり、重量や体積の大部分を水が占め、重くてかさばることもデメリットです。
ただし、過炭酸ナトリウムは、必ずしも液体タイプの代替とはなりません。液体と粉末タイプ(過炭酸ナトリウム)の使用上の違いについて、続けて解説します。
⒊ 過炭酸ナトリウムとは「アルカリ剤入りの過酸化水素」である
過炭酸ナトリウムを溶かした水溶液と、液体タイプの酸素系漂白剤には、どちらも過酸化水素が溶けています。しかし、溶液の「液性」が異なるため、漂白力の強さや使える素材も異なります。
液体タイプが弱酸性である一方、過炭酸ナトリウムの溶液はアルカリ性です。この液性の違いにより、それぞれにメリットとデメリットが生じます。
- 液体タイプの酸素系漂白剤と過炭酸ナトリウムの比較
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酸素系漂白剤
の種類液体タイプ 粉末タイプ
(過炭酸ナトリウム)使用時の水溶液の液性 弱酸性 アルカリ性 メリット おしゃれ着などにも向く 漂白力が高い デメリット 漂白力は低め アルカリに弱い素材に適さない
過炭酸ナトリウムは、アルカリに弱い毛・絹製品などには使えません。酸素系漂白剤が使えると表示された毛・絹製品であっても、粉末タイプを使ってはならず、液体タイプを使う必要があります。
漂白力の面では、アルカリ性であることは大きなメリットです。過酸化水素は、アルカリ性水溶液中でより強い漂白作用を示します。過炭酸ナトリウムは水に溶かすだけで、過酸化水素のアルカリ性水溶液となるため、液体タイプよりも強い漂白力を発揮できるのです。
過炭酸ナトリウムの液性の効果については、次の章でも詳しく解説します。
過炭酸ナトリウムの漂白の仕組み|水に溶けると何が起こるのか?
過炭酸ナトリウムは、変わり者の漂白剤です。
ハイターなどの塩素系漂白剤や、液体タイプの酸素系漂白剤は、水溶液の状態で売られています。しかし、過炭酸ナトリウムは粉末であり、使用時に水に溶かして用います。そして、水に溶けると勝手に気体が発生して、水中からモワモワと泡が生じます。
過炭酸ナトリウムはこうした性質から、漂白剤としては特殊な存在だといえます。使用時に一体どんなことが起こっているのか、なかなか想像はつきにくいでしょう。
そこで本章では、過炭酸ナトリウムを水に溶かして漂白洗浄をするときに起こっている現象を簡単に説明します。概要としては次のような現象が起こっています。
- 過炭酸ナトリウムを水に溶かすと起こること
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- 過炭酸ナトリウムが、炭酸ナトリウムと過酸化水素に分かれて溶け出し、この2つの物質の水溶液になる。
- この溶液中では、過酸化水素は炭酸ナトリウムにより活性化されており、「過酸化水素の自発的な分解」と「過酸化水素による汚れの分解」の2通りの化学反応が起こる。
順番に詳しく解説します。
溶けると炭酸ナトリウムと過酸化水素の水溶液になる
過炭酸ナトリウムの化学式は、2Na2CO3・3H2O2です。これは、アルカリの一種である「炭酸ナトリウム」と、漂白力をもつ「過酸化水素」が、2:3の物質量比(モル比)で、ゆるく結合してできた固体であることを表しています。
過炭酸ナトリウムの固体と、それが水に溶ける様子、溶けきった水溶液は、下の画像のようなイメージです。炭酸ナトリウムを紫の●、過酸化水素を緑の●で表しています。
過炭酸ナトリウムが水に溶けると、炭酸ナトリウムと過酸化水素の混合水溶液になります。これは、消毒に使うオキシドール(薄い過酸化水素水)に、さらに炭酸ナトリウムを溶かしたような状態です。
「過酸化水素の自発的分解」と「汚れの分解」の両方が起こる
炭酸ナトリウムと過酸化水素が水に溶け出した後、次の2つの現象が並行して起こります。
- 過酸化水素の自発的な分解
(過酸化水素 → 水 + 酸素) - アルカリで活性化された過酸化水素による汚れ・色素の分解
溶液中に溶けている炭酸ナトリウムは、アルカリの一種です。過酸化水素は、アルカリ性の溶液中では化学的に活性化された状態になり、安定性が低下するとともに、汚れを分解する能力が高まります。過炭酸ナトリウムが溶けた溶液は、まさにこのような状態になっています。
安定性の下がった過酸化水素は、汚れの分子と出会わずとも、勝手に水と酸素に分解します。過炭酸ナトリウムを水に溶かすと泡が出るのは、この分解により生じる酸素(O2)が原因です。
一方、過酸化水素は分解可能な汚れの分子と出会うと、酸化して汚れを分解します。汚れが落ちるのは、分解されると色がなくなったり、水溶性が高まり水に溶けたりするためです。汚れの分解に伴い、過酸化水素も消費されます。
過炭酸ナトリウムが溶けた後に起こっている現象のイメージを、下の画像にまとめています。
ちなみに、液体タイプの酸素系漂白剤(液性は弱酸性)では、過酸化水素の自発的な分解はほとんど起こりません。アルカリ性ではないため、漂白力も穏やかです。
「発生した酸素が汚れを落とす」という情報は間違い
過炭酸ナトリウムに関する情報ではよく「発生した酸素の泡が汚れを落とす
」のだと説明されますが、これは間違っています。先述したとおり、過炭酸ナトリウムの漂白作用を担っている物質は、水中に溶け出した過酸化水素です。
使用時に酸素の泡が発生しますが、この酸素は主に、汚れを分解せず「無駄に」自己分解してしまった過酸化水素に由来します。
汚れを落とせるかどうかは、酸素の泡が発生しているかどうかでは決まらず、溶液中に十分な濃度の過酸化水素が溶けているかどうかで決まります。
粉末の過炭酸ナトリウムが水に溶ける際は、とくに酸素の泡の発生が盛んです。これは、粉末の近傍では過酸化水素濃度もpHも高く、分解が速まるためです。分解されなかった過酸化水素分子は、水で薄められつつ、溶液中へと拡散していきます。
そのため、過炭酸ナトリウムが溶けきって盛んな発泡が終わっても、漂白力がなくなっているとは限りません。大抵は、溶けきった直後もまだまだ漂白力は残っており、しつこい汚れには長時間のつけ置きが有効なケースも多いです。
まとめ・参考文献
過炭酸ナトリウムは、粉末タイプの酸素系漂白剤として使われる物質で、水に溶け出す過酸化水素が漂白剤として働きます。
コストパフォーマンスに優れ、酸素系漂白剤のなかでは漂白力も高めです。ただし、毛・絹などのアルカリに弱い素材には使えません。
過炭酸ナトリウムを水に溶かして洗浄に使う際は、過酸化水素による汚れの分解と、過酸化水素の自発的分解による酸素発生の2つの現象が起こっています。