柿の渋み成分タンニン|柿は何のために渋くなった?

2019年10月1日

この記事では、渋の渋み成分「タンニン」について解説します。

秋の味覚、柿。旬を迎えると、深みのある橙色をした甘い柿が、店頭にたくさん並びます。

そうしてお店に並んでいる柿はもちろん、そのまま美味しく味わえる「甘い」柿です。

一方、今回ご紹介したいのは「渋柿」のお話。

「果物の柿が、一体なぜ渋いの?」

こんな疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。フルーツなのに「渋み」のある渋柿は、不思議な存在に思えます。

ですが、甘い柿が普通で、渋柿が変わった存在という認識は、私たち人間の勝手な解釈かもしれません。

本来、柿という植物がつける実は渋柿です。柿は自然界での生存のため、タンニンという成分を含む渋い実をつけるように進化してきました。

その観点では、甘い柿の方がむしろ珍妙な存在だといえます。

 

「なぜ渋柿は渋いのか?何のためにタンニンの渋味を持っているのか?どうやって渋味が抜けるのか?」

この記事では、柿の渋味について、渋味成分「タンニン」を中心に解説します。

柿の渋味成分「タンニン」とは?

渋柿の渋味の原因は「タンニン」という成分です。

タンニンはポリフェノールの一種です。植物が作り出すポリフェノールの中でも、タンパク質と強く結合して沈殿する性質を持ったものが、タンニンに分類されます。

柿に含まれるタンニンは特に「カキタンニン」と呼ばれます。渋柿の渋味をもたらす成分であることから、「シブオール」という別名も存在します。

 

タンニンは決して珍しいものではなく、多くの植物が作り出す成分です。このため、植物由来の嗜好品には、タンニンを含むものが多く存在します。お茶やワインなどが代表的です。

タンニンの中でもカキタンニンは、比較的大きな分子量を持つ(多くの場合分子量が1万以上)大きめの分子ですが、水に溶ける性質(水溶性)です。

 

タンニン(tannin)という名前は、「革をなめす」という意味の"tan"という英語に由来します。その名の通り、植物に含まれるタンニンは、動物の皮をなめして(腐らないように加工して)皮革製品に使う革を作るために、古くから利用されてきました。タンニンのもつ「タンパク質と結合して変性させる」性質を利用した、先人の知恵です。

柿が渋い原因はタンニンがタンパク質と結合するため

タンニンには「タンパク質と強く結合して沈殿する性質」がありますが、この性質が渋味の原因です。

渋柿を食べると、可溶性(水溶性)のタンニンが、唾液中のタンパク質と結合し、ざらざらした沈殿を形成します。口腔にまとわりつくような沈殿です。

この際の刺激が、ヒトや、さるかに合戦のサルには「渋味」として認識されます。(もしかするとカニも?)

渋味は生物にとって「これを食べると危険だ!」というシグナルであり、危険を避けるため、不快に感じるよう私たちは進化してきました。

実際、カキタンニンを多量に摂ると、タンパク質を不溶化したり消化酵素の活性を奪ったりして、消化機能に影響を与えます。

なぜ渋い?柿のタンニンはどう役に立つか

果物なのに渋味をもつ渋柿は、一体何のために「渋く」なったのでしょうか。果物を実らす植物の多くは、動物に食べてもらい、種を遠くに運んでもらうために果物を実らせます。渋味をもつ渋柿は、不思議な存在といえます。

この疑問を解くヒントは、「渋柿も熟すと渋味が抜ける」ことにあります。渋柿も、ブヨブヨになるくらいまで自然に熟したものは、たいてい渋味が抜け甘くなっています。この性質こそ、柿という植物が長い年月をかけた進化のたまものです。

渋味を作り、後にその渋味が抜ける。この現象には、柿という植物の、2つの狙いがあるといえます。また、その背後にある原理・メカニズムを解説します。

未熟な種を動物から守る渋味

果物の中には種があります。植物は、種をまいて子孫を残すために果実をつけるので、種があるのは当然です。植物の一部は、果実を食べた動物に、種を運んでもらいます。
(いわゆる「種なし」の品種は、突然変異や品種改良によりできたもので、自然界での生存には不利な形質です。)

柿(ここではカキノキという植物)も、中に種が入った果実を食べてもらうことで、動物に遠くまで種を運んでもらう戦略をとっています。

しかし、種が成熟する(発芽できるようになる)前に動物に食べられてしまえば、せっかくつけた実も種も、全て台無しになります。未熟で芽が出ない種では、子孫は残せません。

そこで、種が熟す前の段階では、動物に食べられないようにする仕組みがあれば、生き残る上で有利になります。その仕組みこそが、タンニンによる柿の渋味です。

動物は、渋い柿の実を食べずに避けます。実らせた柿の実を、早くに食べられ無駄にしないための防御物質がタンニンです。

種が熟すと消える渋味

柿にとって、未熟な実を食べられないのは好都合です。しかし、実がずっと渋いままだと困ったことになります。

実ごと種を動物に食べてもらい、排泄により遠くに種をまくのが、柿が実をつける目的です。種が十分に成熟してからも、実が渋くて動物に食べてもらえなければ、本末転倒でしょう。

 

柿がタンニンを防御物質として選んだ理由は、ただ渋味があるという点だけではありません。種が熟すとタンニンの渋味が消えるのです。

渋柿の渋味は、水溶性のタンニンが唾液中に溶け出すからこそ、生じます。

そのタンニンは、柿の種が成熟した頃になると互いにくっついて、より大きな不溶性の物質へと変化します。唾液中に溶け出さなくなるので、渋味も無くなります。

タンニンによる柿の渋味が抜ける原理・メカニズム

柿とその種が熟す頃に、タンニンが不溶性となり、渋味が抜ける。柿にとっては実に好都合でしょう。

次なる疑問はこうです。「なぜ、そんなに都合のいい時期に、タンニンが不溶性に変わるのか?」

この変化には、柿にとって一番重要な存在「柿の種」が関わっています。成熟した柿の種は、アセトアルデヒドを分泌します。

このアセトアルデヒドが、タンニンとタンニンの分子間を繋ぐ「留め具」の役割をして、タンニン同士がいくつも連結するような化学反応が起こります。

タンニンが連結し、水に溶けられないほど大きな分子となる結果、渋味が抜けます。タンニンが唾液に溶け出すことがなくなり、タンパク質とも結合できなくなるためです。

 

タンニンはポリフェノールの一種です。進化の過程で、柿は渋味成分としてタンニンを選んだのですが、これはポリフェノールとしての性質を巧みに利用しているといえます。

ポリフェノールは抗酸化作用が注目されていますが、その性質は、ポリフェノールが適度に高い反応性を持っていることに起因します。(つまり、酸化を引き起こす活性酸素種とも反応できる)

ポリフェノールであるタンニンもやはり、その性質を兼ね備えています。

アセトアルデヒドとの反応も、タンニン分子中の高い反応性を持った箇所で起こります。化学的にみても、「上手い」戦略です。
(※生体内で起こる反応なので、酵素の力を借りているかもしれないことは、明記しておきます。)

 

種が熟す前は渋味で身を守り、種が熟せば化学反応により渋味が抜ける。

柿の渋味の背後には、巧妙な生存戦略と、よくできたメカニズムがあります。

原理は同じ!柿の人工的な渋抜き

人工的な栽培や品種改良が行われる前から存在していた野生種の柿は、渋柿だったというのが通説です。そこから、突然変異や品種改良により多くの品種が作られました。現在、柿には1000種以上の品種があります。

品種改良されてきたとはいえ、甘い「甘柿」ばかりというわけではありません。商品として出荷される品種でさえ、渋味を持っているものも多く、「渋抜き」の作業を行ってから出荷されています。

 

こういった人工的な渋抜きも、先に書いた自然に起こる反応と原理は同じ。タンニンとアセトアルデヒドの反応による、タンニンの不溶化です。

すなわち、渋抜きで重要なのはアセトアルデヒドを生じさせること。柿がブヨブヨに熟しきる前の段階でも、アセトアルデヒドを生じさせる処理が必要です。

代表的な渋抜き方法の仕組みや原理を、簡単に説明していきます。

渋柿の渋抜き方法いろいろ

渋柿の渋抜き方法には、いくつもの種類があります。代表的なのは次のようなものです。

アセトアルデヒド分泌を促進する方法
炭酸ガス中に置いておく
お湯に入れる
干し柿にする
アセトアルデヒドの原料を供給する方法
アルコールで処理する

どの方法も、アセトアルデヒドを生じさせるという点では同じです。

このうち「仲間はずれ」的な方法は、アルコールによる処理。「柿の種自身にアセトアルデヒドを分泌させるのではない」点で、他の方法とは異なります。

アルコール(エタノール)は、アセトアルデヒドと同じく二つの炭素原子を持ち、酸化されるとアセトアルデヒドになります。この酸化に関わる酵素は、高等植物に普遍的に存在します。

おそらく、柿の実に吸収されたアルコールの一部が酸化され、アセトアルデヒドができるのでしょう。アルコールによる渋抜きは、一般家庭でも広く行われています。

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柿の渋抜き用に作られたお酒です。最適なアルコール度数で渋抜きができます。

残る三つではおそらく、柿自身にアセトアルデヒドを分泌させています。

炭酸ガスによる渋抜きは、たくさんの柿を出荷する際によく行われます。倉庫内の炭酸ガスが充填された環境に、柿が2日間ほど置かれることとなります。酸素がなくなることが重要です。このような環境で植物は、酸素を消費する好気代謝ができない代わりに、嫌気代謝(酸素を消費しない物質の変換)を行うようになります。この際、アセトアルデヒドが作り出されます。

干し柿とお湯は……はっきりとしたメカニズムは分かりませんので筆者の予想ですが、単純に熟成が進んでアセトアルデヒドが分泌されるのかと思います。お湯に入れれば温度が上がった分、酵素反応などが活性化するのかもしれません。また、干し柿にして水分が抜けることは、反応する物質(タンニンとアセトアルデヒド)の濃度が高くなり、分子同士が出会いやすくなることを意味します。もちろん、干すことで糖分も濃縮され、食べると強い甘みが感じられます。

 

どういった方法にせよ、生じさせたアセトアルデヒドとの反応によりタンニンを不溶化させることが、渋抜きの共通原理。先人の知恵による渋抜き方法の背後にも科学的メカニズムがあるのは、面白いと思いませんか。

タンニンの渋味があってこそ柿は生き残れた

私たちが柿を食べる時には困りものの渋味。

渋味の原因タンニンは、アセトアルデヒドとの反応で不溶化し、渋味が抜けます。この性質が上手く利用されているので、私たちは元々渋い柿でさえ美味しく頂けます。

 

もし柿が渋味を作り出していなければ、柿という植物は自然界で生き残れなかったかもしれません。秋になっても、私たちは柿のおいしさを味わうことができなかったでしょう。

「柿は食べたいけど渋味は邪魔」というのは本来、少しワガママな言い分なのかもしれませんね。

 

美味しい柿を食べられるのは、品種改良も含めて、渋味を抑える様々な工夫があってこそです。

次に柿を食べる時は、甘くて美味しい柿が味わえることの特別さに、思いをはせてみてはいかがでしょうか。

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