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石鹸カスの成分「金属石鹸」とは?実験も交えて解説!

石鹸カスの成分「金属石鹸」とは?

石鹸は水中のカルシウムやマグネシウムと反応して、水に溶けない沈殿を生成します。この沈殿が、石鹸カスの成分である「金属石鹸」です。

石鹸水が白っぽく濁っているのも、石鹸の一部が金属石鹸に変化することが原因です。

この記事では、掃除をするうえでも知っておきたい石鹸カスの成分「金属石鹸」について、実験を交えて解説します。


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石鹸カスの掃除・除去方法はこちらの記事で解説しています。

石鹸カスの成分「金属石鹸」とは?

日常生活で使う石鹸や、石鹸カスの成分である金属石鹸は、どちらも脂肪酸のえんです。

脂肪酸とは名前のとおり、動植物が作り出す脂肪(油脂)の構成成分でもあります。

脂肪酸は、このように細長い形をした有機酸です。
脂肪酸には様々な種類があるが、いずれも端にCOOH基がついた長い炭素鎖という共通構造を持つ。

こうした脂肪酸(R-COOH)が塩を作ると、広義の石鹸になります

固形石鹸や液体石鹸の主な成分はそれぞれ、脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウムです。R-COONaやR-COOKと表せます。

石鹸を水に溶かした際、一部は水中のカルシウムやマグネシウム等の金属イオンと反応して、金属石鹸(脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムなど)になります。この金属石鹸が、いわゆる石鹸カスです。
石鹸と水中の金属イオンが反応すると、金属石鹸ができ、性質も大きく変化する。金属石鹸は水に不溶である。

金属石鹸(石鹸カス)の性質

金属石鹸は、普通の石鹸とは大いに性質が異なります。

金属石鹸の特徴
水に不溶
水洗いでは落としにくい。
固体である
石鹸使用中に生成すると沈殿になる。
油溶性である
プラスチックなどに付着しやすい。

金属石鹸は油溶性の物質で、(一部の例外を除き)常温で固体です。

石鹸カス(金属石鹸)は、しっかりと付着してしまうと、水洗いはあまり効果がありません。金属封鎖剤(金属イオンを補足する)を使った専用洗剤や、酸塩基反応を利用した洗浄など、化学的な除去方法が効果的です。

油溶性であるため、親水性しんすいせい界面かいめんに比べて、疎水性そすいせいの界面に吸着しやすい性質もあります。

金属やガラス表面などの親水性界面(水となじみやすい表面)に比べて、プラスチック樹脂の表面などの疎水性界面(水となじみにくい表面)との相性が良く、そうした素材のものに付着しやすいのです。

例えば浴室では、プラスチック製の洗面器やイス、樹脂製の床や壁などには、特に石鹸カスが付着しやすいといえます。

金属石鹸は水に溶けない固体で、特にプラスチック製品に付着しやすい。

金属石鹸ができるメカニズムや原因は?

水に溶けた石鹸の分子は、カルシウムやマグネシウムイオンと出会うと、すぐに金属石鹸を形成します。石鹸から生じる脂肪酸イオンは、これらの金属イオンと強く結びつきやすく、金属石鹸の生成は自発的に(勝手に)起こる変化なのです。

金属石鹸(石鹸カス)は、水に石鹸とカルシウムやマグネシウムイオンが溶けているだけで、勝手に生成する。

水道水や井戸水などの生活用水には多かれ少なかれ、カルシウムやマグネシウムイオンが含まれます。そのため、石鹸を使う限り、多少なりとも金属石鹸が生成します。

ただし、金属石鹸がどの程度生成するかは、まず水質(水の硬度)に大きく左右され、使用方法などによっても異なります。

水質(軟水や硬水)と石鹸カスのできやすさの関係

硬水はカルシウムイオンやマグネシウムイオンを多く含みます。そのため、硬水では石鹸を使う際に石鹸カス(金属石鹸)が生じやすいです。

硬水で石鹸を使うと、泡立ちが悪く感じられ、泡立つまでに多くの石鹸を消費します。水中の金属イオンが反応し尽くした後、さらに石鹸を溶かすとようやく泡立つためです。その際、石鹸カスが多くできてしまいます。

軟水でも、硬水ほどではありませんが、金属石鹸が生じないわけではありません。

石鹸カスを防ぎつつ、効率よく使うには、次に述べるようなコツを意識するとよいでしょう。

石鹸を使う際に石鹸カスを防止するには?

多量の水で希釈するような使い方は、石鹸にはあまり向いていません。水の量が多いほど、石鹸が反応する金属イオンの量も多くなるためです。

例えばつけ置き洗いでは、多量の水に石鹸を溶かします。手やスポンジなどに泡立てて使う洗い方に比べて、金属石鹸が生じやすく、石鹸の無駄も多くなります。手を洗うときのように、少量の水で石鹸を溶かして洗うのがコツです。石鹸は、多量の水で薄めるより、少量の水で溶かして使うとよい。

キレート剤や炭酸塩で石鹸カス生成を多少防げる

EDTA、グルコン酸塩、クエン酸塩などの金属封鎖剤(金属イオンをブロックする働きがある|キレート剤とも呼ぶ)が配合された石鹸なら、そうでない石鹸に比べて、金属石鹸の生成を多少は防げます。

洗濯で石鹸を使うケースでも同様のことが言えます。いわゆる無添加の石鹸は、石鹸カスとして無駄に多くの石鹸が消費されるため、洗濯機での使用にはあまり向きません。

洗濯石鹸によく配合されている炭酸塩にも、水の硬度の影響をいくぶん抑える性質があります。もし洗濯機で石鹸を使う場合、炭酸塩配合の洗濯石鹸を使うか、自分で炭酸塩を添加するとよいでしょう。

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金属石鹸(石鹸カス)に関する実験してみた!

金属石鹸は日常生活で石鹸を使う際、ごく普通に生じています。石鹸水は白く濁っているイメージがありますが、あの白濁の正体は金属石鹸なのです。

この章では、水中のカルシウムやマグネシウムイオンが石鹸と反応して金属石鹸になることを、簡単な実験で示します。

精製水と硬水で石鹸水を作ると…?

日本の水は軟水が多く、硬水は稀ですが、世界にはヨーロッパのように硬水が多い地域も存在します。硬水の地域では、石鹸は非常に使いにくい洗浄剤です。その理由は、簡単な実験で説明できます。

今回は、硬度が異なる3種類の水を使って同濃度の石鹸水を調製し、違いを観察します。

実験に用いた3種類の水(硬度はCaCO3換算)
  • 精製水(硬度0)
  • 軟水(水道水:硬度およそ40 mg/L)
  • 硬水(ミネラルウォーター:硬度300 mg/L超)

まず下準備として、精製水を使って約2%石鹸水を調製します。

石鹸は、金属封鎖剤(キレート剤)を含まない、いわゆる無添加の製品を用いました。水に溶けやすいように、おろし金で細かく削りました。
無添加石鹸を、おろし金で細かく削った。
削った石鹸と精製水をコニカルビーカーに入れて温めつつ、撹拌して溶かしました(マグネチックスターラーを使用)。
削った石鹸と精製水をコニカルビーカーに入れ、水浴で温めつつ撹拌して溶かした。

次に、40 gの精製水、軟水、硬水を3つのサンプル瓶に入れました。
約2%石鹸水と、精製水、軟水、硬水が入った瓶を用意した。これで下準備が完了です。左側のコニカルビーカーには、石鹸の析出を防ぐために加温しておいた約2%石鹸水が入っています

3種類の水に対して、駒込ピペットで約2%石鹸水を約2 mLずつ加えました。加えた直後の写真です。
石鹸水を加えると、精製水は無色透明のままだが、軟水ではわずかに白く濁り、硬水では極端に白く濁った。

石鹸水を加えた軟水(写真中央)は、わずかに白く濁りました。多くの日本人が持つ「石鹸水」のイメージに近いのではないでしょうか。

一方、精製水に石鹸水を加えても無色透明のままで(写真左)、見た目には変化がありませんでした。カルシウムやマグネシウムイオンなどが含まれない水では、石鹸水は無色透明になるのです。

石鹸水を加えた硬水(写真右)では、瓶の向こうが見えないほど真っ白に濁りました硬水にはカルシウムイオンとマグネシウムイオンが多く含まれ、金属石鹸(石鹸カス)が多量に生じたためです。

石鹸水としての泡立ちも比較してみます。3つの瓶に蓋をして、激しく振り混ぜた直後の写真です。
蓋をして石鹸水を振り混ぜると、精製水と軟水の石鹸水は泡立つが、硬水の石鹸水は泡立たない。精製水と軟水では、たくさんの泡が浮かんでいます。しかし硬水の場合では、泡立ちが見られず、石鹸水としての性質(起泡性)が失われていました。

硬水では泡立たなかったのは、溶かした石鹸のほとんどが金属石鹸に変化して、もはや石鹸水とは呼べない状態になっているためです。

硬水に浮かんでいるものは泡ではなく、水に溶けずに浮遊している金属石鹸(石鹸カス)です。瓶を倒すと、壁面に固体が付着している様子が見て取れます。
硬水の瓶を倒すと、壁面に白い金属石鹸(石鹸カス)の固体が付着している。

硬水でも、石鹸が泡立たないわけではありません。金属石鹸になって消費される量を上回る石鹸を溶かせば、泡立ちます。下の写真は、硬水へさらに2 mLの約2%石鹸水を追加した後に振り混ぜ、泡立てたものです。
硬水が入った瓶に加える石鹸の量を増やすと、硬水でも泡立つようになる。これは、硬水に含まれていたカルシウムやマグネシウムイオンは金属石鹸になっており、石鹸(脂肪酸ナトリウム)も水に溶けている状態です。

まとめ

石鹸と、水に含まれるカルシウムやマグネシウムイオンが反応すると、金属石鹸の沈殿が生じます。これが石鹸カスです。

硬水では軟水に比べて、金属石鹸が多く生成します。泡立てるのに多くの石鹸を要し、石鹸カスも多く生じるため、石鹸の使用にはあまり向かない水質です。軟水であっても、なるべく水の使用量を抑えて洗う方が、石鹸の無駄や石鹸カスを少なくできます。